エムバペが守備しない理由とは?データと本人発言から真相を検証

こんな疑問を持つ方へ

  • 試合中に歩いているエムバペを見て「本当に守備しないんだな」と感じた
  • あれだけの選手がなぜ守備を免除されているのか、理由が知りたい
  • 批判されるほどのことなのか、それとも戦術なのか、判断材料がほしい

エムバペが守備しないという指摘は、レアル・マドリード移籍後も繰り返し話題になってきました。実際にデータを見ると批判には根拠がある一方、本人の発言や監督たちの采配をたどると、単なる「怠慢」では片づけられない事情も見えてきます。この記事では、数字・本人の言葉・歴代監督の対応という3つの角度から、この問題の全体像を整理します。

エムバペが守備しないと言われる3つの理由

まず、「守備しない」というイメージがどこから生まれているのかを確認します。印象論ではなく、データと本人の発言という具体的な根拠が存在します。

理由1: プレッシング回数がリーグ最低水準だったデータ

レアル・マドリード移籍1年目にあたる2024-25シーズンの序盤、スペインメディアの分析が話題になりました。ラ・リーガで300分以上プレーしたFWのうち、エムバペの90分あたりプレッシング回数は0.63回でワースト1位。ワースト2位の選手と比べても半分以下という数字でした。同じ集計では、マジョルカでプレーしていた日本代表FW浅野拓磨が4.49回を記録しており、その差は約7倍です。

プレッシングとは、相手がボールを持ったときに素早く距離を詰めてボールを奪いにいく守備行動のことです。前線の選手にとっては「攻撃が終わった直後の切り替え」が問われる指標であり、ここでリーグ最低水準だったことが、「守備しない」という評価に強い説得力を与えました。

理由2: 本人が「他の選手より守らない」と認めた発言

決定的だったのは、エムバペ本人がこの評価を否定しなかったことです。2026年4月、エムバペはアクラフ・ハキミやオーレリアン・チュアメニらと出演したポッドキャスト番組で、自身の守備について「自分は他の選手より少し守備をしない選手で、それが問題になることもある」という趣旨の発言をしました。

さらに「守備のことで多くの批判を受けるが、不快には感じていない。建設的な批判だと考えている」とも語っています。同時に、「自分が守備をすれば、チームに大きなインパクトを与えられる。レアル・マドリードで自分が守備をすると、他の選手もそれに続く」という自負ものぞかせました。つまり本人の中では、「常に守備をする選手ではないが、やるべき場面ではやる」という整理がなされているわけです。

理由3: 攻守の切り替えで「歩く姿」が目立つポジション事情

エムバペは左ウイングやセンターフォワードでプレーすることが多く、テレビ中継では自陣に戻らず前線に残る姿が頻繁に映ります。ボールを失った直後に歩いている場面は視聴者の目に留まりやすく、SNSでは試合のたびに話題になります。実際、レアル・マドリードの一部サポーターからは「前線で孤立している」「守備をしない」という不満の声が上がっていることが、スペイン現地からも伝えられています。

ただし、前線に残ること自体は「カウンターの起点として待つ」という役割の裏返しでもあります。この点は後述する監督たちの采配と深く関わってきます。

なぜ守備をしないのか?背景にある3つの事情

では、なぜエムバペは守備への関与が少ないのでしょうか。サボり癖という一言では説明できない、3つの背景があります。

スプリントの爆発力を守るための体力マネジメント

エムバペ最大の武器は、世界トップクラスのスプリント能力です。守備のために自陣まで戻り、また攻撃で最前線まで走る往復を90分続ければ、肝心のカウンターの場面で最高速度を出せなくなります。攻撃での決定的な仕事に体力を集中させることは、本人とチームにとって合理的な選択という側面があります。実際、2026年1月からレアル・マドリードを指揮したアルバロ・アルベロア監督は、エムバペとヴィニシウスにプレスで消耗してほしくないという趣旨の説明をしています。

「エースの守備免除」というサッカー界の伝統

突出した攻撃力を持つ選手に守備の負担を免除する考え方は、エムバペが最初ではありません。メッシはバルセロナ時代の後期から試合中に歩く時間が長いことで知られていましたし、クリスティアーノ・ロナウドもキャリア後半は守備をほぼ免除されていました。「10回歩いても1回のゴールで試合を決めるなら釣り合う」という発想は、トップレベルのチーム作りで昔から繰り返されてきたものです。エムバペへの批判は、この伝統的なトレードオフをどう評価するかという古典的な論争の最新版とも言えます。

得点への貢献が圧倒的で「免除しても割に合う」こと

エムバペはレアル・マドリード1年目の2024-25シーズン、ラ・リーガで31得点を挙げて得点王(ピチーチ賞)となり、欧州リーグ全体の得点王に贈られるゴールデンシューも初受賞しました。公式戦全体では43得点です。続く2025-26シーズンもラ・リーガで25得点を挙げ、2季連続で得点王に輝いています。これだけの得点力があるからこそ、監督は「守備をさせて攻撃力が落ちるリスク」を取りにくいのです。

歴代監督はエムバペの守備問題にどう向き合ったか

エムバペの守備をめぐっては、監督ごとにアプローチがはっきり分かれてきました。この変遷こそが、問題の難しさを物語っています。

ルイス・エンリケ(PSG時代): 守備を強く要求した監督

PSG時代の最終盤、ルイス・エンリケ監督はエムバペに守備への関与を強く求めました。ロッカールームでマイケル・ジョーダンを引き合いに出し、「ジョーダンは狂ったように守備をした。まず人として、選手として模範を示さなければならない」と直接説いたことが、後にドキュメンタリー映像で明らかになっています。

示唆的なのはその後です。エムバペが2024年夏に退団したPSGは、全選手がプレスに走る戦術を徹底し、2024-25シーズンにクラブ史上初のチャンピオンズリーグ優勝を達成しました。ルイス・エンリケは優勝後、「デンベレはその守備によってバロンドールを受賞すべきだ」とエースの守備貢献を称えており、エムバペ退団後のチームが「攻守両面で良くなった」と公言したこともあります。守備をしないスターを外して組織を作り直したチームが欧州の頂点に立ったことは、この議論に大きな材料を投げかけました。

アンチェロッティ(レアル 2024-25): 事実上の「守備免除」で設計

エムバペ加入1年目のレアル・マドリードを率いたアンチェロッティ監督は、エムバペとヴィニシウスの2人を実質的に守備から免除し、残りの選手でバランスを取る道を選びました。しかしこの設計は中盤や最終ラインへの負担が大きく、スペインでは「守備免除の問題」としてチーム不振の要因に挙げられました。特に、前線の守備の穴を埋める役割がベリンガムら中盤の選手に集中したことが指摘されています。

シャビ・アロンソ(2025-26前半): ハイプレス改革の挫折

2025年夏に就任したシャビ・アロンソ監督は、チーム全体でのハイプレスを掲げ、エムバペにも守備への関与を求めました。シーズン序盤は公式戦14試合で13勝1敗と結果が出て、エムバペのプレー変化を伝える報道もありましたが、11月頃からプレスの機能不全とともに失速。連動しない前線の守備、とりわけヴィニシウスとエムバペの守備関与の少なさに批判が向かいました。チームは直近14試合を7勝3分4敗で終え、2026年1月のスペイン・スーパーカップ決勝でバルセロナに2-3で敗れた翌日、クラブはシャビ・アロンソ監督の退任を発表しました。

興味深いのは、シャビ・アロンソが解任される前、スペイン代表を率いた経験のある指導者から「スター選手の欠点ごと受け入れなければ、かえって物事を壊してしまう」という趣旨の警告を受けていたと報じられていたことです。後任のアルベロア監督が「2人をプレスで消耗させたくない」と方針転換したのは、まさにこの考え方に沿ったものでした。監督が3人代わっても最適解が見つかっていない事実こそ、この問題の根深さを示しています。

データ検証: エムバペは本当に守備していないのか

ここまで批判の根拠を見てきましたが、データを丁寧に見ると、単純な「守備ゼロ」ではないことも分かります。ラ・リーガの公式データ部門の集計をもとにした分析では、エムバペの守備関連の数値は次のように推移しています。

指標(ラ・リーガ・90分あたり) 2024-25 2025-26
ボールプレッシャー回数 12.41回 12.47回
ボール奪回につながったプレッシャー 3.49回 3.24回
リーグ得点(参考) 31得点(得点王) 25得点(得点王)

「あれ、プレッシングは0.63回では?」と思った方もいるはずです。この食い違いは集計の定義の違いによるものです。冒頭で紹介した0.63回という数字は、相手に強く寄せて奪いにいく狭い意味でのプレッシングを数えたスペインメディアの分析です。一方、上の表の「ボールプレッシャー」は、相手ボール保持者に一定の距離まで近づいた行動を広く数える指標です。つまりエムバペは、「相手に軽く寄せる」守備は人並みに行っているが、「本気でボールを奪い返しにいく」強度の高い守備が極端に少ない、と読み解くのが実態に近いと言えます。

数字の結論: 「まったく守備しない」は言い過ぎだが、「奪い返すための激しい守備をしない」はデータ上も事実に近い。批判と擁護のどちらにも根拠がある、というのが公平な見方です。

守備しないエムバペは「悪」なのか — 賛否の整理

この問題には明確な正解がなく、サッカー観そのものが問われます。批判・擁護それぞれの主張を整理します。

批判派の言い分: 1人の免除がチーム全体を壊す

現代サッカーの守備は11人の連動が前提です。前線の1人がプレスに参加しないと、後ろの選手が余計な距離をカバーせざるを得ず、組織全体が乱れます。レアル・マドリードのロッカールーム内でも、エムバペが守備の義務を果たさないことで他の選手に負担が転嫁され、ボール奪回のアプローチ全体が乱れることを憂慮する声があったと報じられています。エムバペ不在のPSGが全員守備でチャンピオンズリーグを制した事実も、批判派の強力な論拠です。

擁護派の言い分: 欠点込みで釣り合いが取れている

一方で擁護派は、2季連続リーグ得点王という圧倒的な生産性を挙げます。守備を課して得点が減れば本末転倒であり、前線に残っているからこそカウンター一撃の脅威が生まれるという考え方です。「スター選手の欠点は受け入れるべきだ」という元指導者の見解や、アルベロア監督の「プレスで消耗させたくない」という方針は、この立場を代表しています。歴史を振り返っても、メッシやクリスティアーノ・ロナウドのように守備免除と引き換えに得点を量産した前例は数多くあります。

2026年ワールドカップへ — 本人が語った「守備での一歩」

この論争に、エムバペ自身が新しい材料を投げ込みました。フランス代表のキャプテンであり、同国の歴代最多得点記録も更新しているエムバペは、2026年のワールドカップ北中米大会を前にしたフランス紙のインタビューで、「守備面でもう一歩前進する必要がある。何としてもワールドカップが欲しいから、正しくやる準備はできている」という趣旨の発言をしています。

批判を「建設的なもの」として受け入れてきたエムバペが、大舞台を前に自ら守備改善を宣言した意味は小さくありません。守備をしないと言われ続けた選手が代表チームでどんな姿を見せるのかは、この問題の次の注目点です。クラブでも代表でも、エムバペの「歩く姿」と「走る姿」の両方に注目して試合を観ると、これまでとは違った面白さが見えてくるはずです。

よくある質問

Q1. エムバペはPSG時代から守備をしなかったのですか?
はい、PSG時代から同様の指摘はありました。特にルイス・エンリケ監督は在任中、エムバペに守備への関与を強く求め、マイケル・ジョーダンを例に挙げて直接説得したことが知られています。レアル・マドリード移籍後に始まった話ではなく、キャリアを通じて続いてきたテーマです。
Q2. 守備をしないのに、なぜスタメンで使われ続けるのですか?
得点力が圧倒的だからです。レアル・マドリードでは2024-25シーズンにラ・リーガ31得点で得点王とゴールデンシューを獲得し、2025-26シーズンも25得点で2季連続の得点王となりました。守備の穴を差し引いても、外すという選択肢を取りにくい生産性を維持しています。
Q3. エムバペ本人は批判をどう受け止めているのですか?
2026年4月のポッドキャスト出演時に「自分は他の選手より守備をしない。それが問題になることもある」と認めたうえで、「批判は不快ではなく、建設的なものだと考えている」と語っています。開き直りではなく、自覚したうえで自分の役割を整理している、という立場です。
Q4. メッシやロナウドも「守備しない」と言われていましたか?
言われていました。メッシはバルセロナ時代後期から試合中に歩く時間の長さが度々分析対象になり、クリスティアーノ・ロナウドもキャリア後半は守備をほぼ免除されていました。突出した得点力を持つ選手の守備免除は、サッカー界で繰り返されてきた古典的な論争です。
Q5. 監督が代われば、エムバペも守備するようになりますか?
簡単ではないことが実証されつつあります。2025-26シーズンにシャビ・アロンソ監督がハイプレスを求めた際は、序盤こそ機能したものの中盤戦で崩れ、監督交代に至りました。後任のアルベロア監督は逆に守備の要求を緩める方針を示しており、「エムバペに合わせてチームを作る」方向に揺り戻されています。

まとめ

エムバペが守備しないと言われる背景には、プレッシング回数がリーグ最低水準だったデータ、本人が「他の選手より守らない」と認めた発言、そして試合中に前線で歩く姿という3つの根拠がありました。一方でデータを細かく見ると、軽い寄せは人並みに行っており、「強度の高い守備が極端に少ない」というのが正確な実態です。

その背景には、スプリントの爆発力を守る体力マネジメントと、2季連続得点王という圧倒的な見返りがあります。アンチェロッティは免除し、シャビ・アロンソは要求して挫折し、アルベロアは再び免除へと舵を切りました。監督が3人代わっても答えが出ないこと自体が、この問題の本質です。そしてエムバペ本人は、2026年のワールドカップを前に「守備でもう一歩前進する」と宣言しました。守備をしないエースが変わるのか、それともチームがエースに合わせ続けるのか。エムバペの試合を観るとき、ゴール以外にもう一つの見どころが増えたことは間違いありません。