サッカーの祭典「FIFAワールドカップ」では、優勝国にワールドカップトロフィーが授与されます。
本記事ではトロフィーの歴史や特徴、素材や重さ、値段、保管場所から、レプリカとの違いや知られざる逸話、そして「なぜワールドカップ優勝国に本物ではなくレプリカが渡されるのか」について解説します。

まずはワールドカップ優勝トロフィーの歴史を振り返ってみましょう。現在のトロフィーに至るまでには、初代の「ジュール・リメ杯」から現在のトロフィーへと受け継がれる壮大な物語があります。

FIFAワールドカップ創設者であるジュール・リメ氏の名を冠した初代優勝トロフィーは、1930年から1970年まで使用されました。
フランスの彫刻家アベル・ラフルールがデザインし、ギリシャ神話の勝利の女神ニケが八角形の優勝杯を頭上に捧げ持つ姿をかたどった優美な意匠でした。
材質は純銀製に金メッキが施され、高さ約35cm、重量約3.8kgと伝えられています。
当初このトロフィーは「ビクトリー杯」と呼ばれていましたが、後にリメ氏を称えて「ジュール・リメ・トロフィー」の名で親しまれるようになります。
ワールドカップ創設時のFIFA規定では「同一国が3度優勝したらトロフィーを永久に授与する」というルールがあり、1970年大会で3度目の優勝を果たしたブラジルに初代トロフィーは永久譲渡されました。
ところが、その後トロフィーは数奇な運命をたどります。1966年大会前には展示中に一度盗難に遭い、幸いにも犬の「ピクルス」が発見するという劇的なエピソードがありました。
しかし1983年、ブラジル国内で再び盗難事件が発生し、犯人は逮捕されたもののトロフィー本体は未だ発見されていません。現在ブラジルで展示されているジュール・リメ杯はレプリカであり、初代トロフィーの本物は行方不明のままなのです。

ブラジルへの永久譲渡が決まった時点で、新しいトロフィーのデザイン募集が行われました。選ばれたデザインを基に、イタリアの彫刻家シルビオ・ガザニガ氏が改良を施し、ミラノのGDEベルトーニ社が製造したのが現在のトロフィーの原型です。
この新トロフィーは従来の女神像ではなく、2人のサッカー選手が地球を支えるデザインで、ワールドカップにふさわしい「世界的な団結と勝利」を象徴しています。
材質は後述するように18金製で、初代より大型化され高さ36cm、重量約5kgとされました。
この2代目トロフィーは1974年西ドイツ大会から実際に使用され始め、以後FIFAワールドカップの優勝トロフィーとして定着しました。
2代目デザインのトロフィーは長年使用されましたが、2005年に細部のデザイン修正が行われました。具体的には、地球儀に描かれた日本列島の形状などがより正確になるよう微調整され、トロフィーの高さが36cmから36.8cmへ、重量も4,970gから6,175gへと増しています。
材質や基本デザインは同じですが、わずかにサイズアップし、より重量感が増したこの改良版トロフィーが現在使用されているものです。
この3代目トロフィーは2006年ドイツ大会から導入され、現在に至るまでFIFAワールドカップ優勝トロフィーとして世界を巡っています。


トロフィーは大量の金を含むため、素材としての価値も非常に高額です。実際、金の純度18K・約5kg強の金塊と考えると、市場価格で優に2,000万円を超えるとも報じられています。
しかし、その真の価値はプライスレス(値段を付けられない)です。各大会のドラマと歴史を刻んできた唯一無二のトロフィーであり、世界中のサッカー選手が夢見る「栄光の証」だからです。
2018年時点の米国メディアによる試算では、その歴史的・象徴的価値を考慮すると1,500万ポンド(約20億円)にも達すると評価されたとの報道もあります。
単なる貴金属の塊ではなく、90年以上にわたるサッカーの歴史と人々の情熱が染み込んだトロフィーこそが、この「本物」の持つ真の価値なのです。
本物のトロフィーは純度18金(18K)の金製です。
表面は美しい金色に輝きますが、中身は中空構造であり「純金の塊」ではありません(強度や重量バランスのため中空)。それでも含まれる純金量は約4,927gにも達し、金属価値だけでも膨大です。
土台(台座)部分には深緑色のマラカイト(孔雀石)という半貴石がはめ込まれています。
マラカイトの鮮やかな緑と金の対比が高級感を演出し、デザイン上のアクセントになっています。台座の直径は約13cmで、トロフィー全体を安定して支える役割を果たしています。
現行の本物トロフィーは、高さ36.8cm、幅13cm、重量6.175kgという堂々たるサイズです。初代ジュール・リメ杯(高さ35cm・重量3.8kg)と比べても一回り大きく、重さも約2倍になりました。
36cm超の高さは成人男性が両手で掲げるのにちょうどよい迫力があり、約6キロ超の重量は選手が持つとずっしり感じられる重みです。
2リットルのペットボトル(約31cm)より少し高めで、ボウリングの球(一般的に約6~7kg)1個分程度の重さをイメージするとわかりやすいでしょう。
トロフィーのデザインは、2人のサッカー選手が両手を突き上げて地球を支えている独特の造形です。
制作者のガザニガ氏によれば、「ゴールを決めて両手を挙げて喜び、自陣に駆け戻る選手たち」の姿から着想を得たといいます。
躍動感あふれる人間の彫像と球体の地球が一体となったデザインは、ワールドカップが世界規模の大会であること、そして人々の情熱によって支えられていることを象徴しています。
トロフィー正面の台座下部には、小さく「FIFA WORLD CUP™」の刻印があり、公式な優勝トロフィーであることを示しています。また、優勝国の名前はトロフィー下部の側面に刻まれる方式になっており、毎大会ごとに優勝年と国名が追加で彫られていきます。
この刻印はトロフィーの裏側下部にひっそりと記録されており、優勝チームだけが自分たちの名を刻む栄誉を得ることができます。

表彰式の壇上で選手たちが掲げるのは本物のトロフィーです。ただし、本物が優勝国に渡るのは式の間だけ。セレモニーが終わると即座にFIFAに回収され、代わりに公式レプリカが優勝国に贈られます。
これは初代トロフィーの盗難事件の教訓を踏まえ、2006年以降に徹底されるようになったルールです。
1974年から2002年までは、優勝国が本物を次回大会まで4年間保持し、返還後にレプリカを受け取る方式でした。しかし現在では表彰式直後に返還となり、優勝チームが本物に触れられる時間はごくわずかに限られています。
実際、2014年大会でドイツ代表が優勝した際にも、本物はすぐ回収されドイツに持ち帰られたトロフィーはコピー(レプリカ)でした。
そのレプリカの一部が破損したという報道がありましたが、本物はFIFA本部に保管されていたため無事でした。このように、優勝国に長期間渡るのは常にレプリカであり、本物はFIFAが厳重に管理しているのです。
優勝国のサッカー連盟に贈られる公式レプリカは、一見すると本物と瓜二つです。しかし細部には違いがあります。公式レプリカは金メッキを施したブロンズ(真鍮)製で、本物のように純金ではありません。
そのため重量も本物より軽く、例えば2014年ドイツが受け取ったレプリカは一部破損時の報道で「軽合金製」とも伝えられています。
外観は精巧に作られているため肉眼ではほぼ区別できませんが、材質と重さで見分けがつきます。
なお、この公式レプリカには「FIFA World Cup Winner’s Trophy(優勝トロフィー)」という刻印が入っており、本物の「FIFA World Cup Trophy」とは刻印が異なるとされています(刻印の違いは公式には公表されていませんが、識別のための工夫と言われます)。
要するに、優勝国が記念として保有できるのはレプリカだけであり、本物の所有権は常にFIFAにあるということです。これもまた盗難や紛失を防ぐための措置であり、世界に1つしかない至宝を守る知恵と言えるでしょう。
本物のトロフィーに関して、もう一つ知っておきたいポイントがあります。それは「トロフィーに触れて良い人」に関するFIFAの公式ルールです。実はこのルール、一般の人はもちろんのこと偉大なサッカー選手であっても例外ではありません。
FIFAはワールドカップトロフィーに直接触れることができる人物を厳格に限定しています。それは「過去にワールドカップを優勝したことのある選手(優勝チームのメンバー)」および「各国の元首(国家元首)」のみと定められています。
つまり、一度も優勝経験のない名選手がいくら偉大でも、このトロフィーには触れられないのです。
例えば、伝説的選手であるペレはブラジル代表として3度のW杯制覇を経験しているため触れることが許されますが、オランダの英雄ヨハン・クライフは優勝経験がないため触れる資格がありません。
ワールドカップ優勝という偉業を成し遂げた者だけに与えられる特権、それが「トロフィーに触れる資格」なのです。
一般のファンや大会関係者は、たとえ目の前に本物のトロフィーがあっても直接手を触れることは禁止されています。展示などで公開される際には常にケースに収められているのはこのためです。
厳重なルールと管理によって、トロフィーの神聖さと安全が守られていると言えるでしょう。

本物のトロフィーは、現在スイス・チューリッヒにあるFIFA本部(および併設のFIFAワールドフットボール博物館)に保管されています。
FIFA本部の施設には高度なセキュリティが敷かれており、ワールドカップトロフィーはその厳重警備の下で保管・展示されています。
FIFAの博物館ではトロフィーが防弾ガラスのケースに収められて展示されており、来館者はケース越しにその本物を見ることができます。
以前は優勝国が次回大会まで本物を保管していた時期もありましたが、前述のとおり現在では優勝後すみやかにFIFAへ返還されるため、本物が各国に長く留まることはありません。
FIFAは過去の盗難事件を受けて、本物トロフィーの安全管理を徹底しています。先述のようにFIFA本部・博物館にはスイスでもトップクラスの複雑なセキュリティシステムが導入されているといわれます。
24時間体制の監視カメラや警備員の巡回はもちろん、展示ケース自体も特殊なロックや防犯装置が備わっています。
また、トロフィーを輸送する際には専用のハードケースに納め、FIFA職員と警備担当者が厳重に付き添います。後述する「トロフィーツアー」で世界各国を巡回するときも、専用のチャーター機で移動し、移動中も常に目を離さないよう厳しく管理されています。
万が一損傷が生じた場合に備えて、製造元の職人たちが修復できる体制も整えられています。
実際に2014年にはドイツ代表が持ち帰ったレプリカの一部破損が発覚しましたが、その際も「修繕のスペシャリストが対処するので心配いらない」とコメントされています。本物についても、必要であれば製造元のイタリア職人らがメンテナンスを施すことで、その輝きと完全性が保たれているのです。

最も確実に本物を見られる場所が、スイス・チューリッヒにあるFIFAワールドフットボール博物館です。
館内には実際に使用された本物のワールドカップトロフィーが展示されており、ガラスケース越しに間近で鑑賞できます。トロフィーの細部や輝きをじっくり観察できる絶好の機会です。
博物館には他にも歴代大会のユニフォームや資料などサッカー史に関する展示が充実しており、サッカーファンなら一度は訪れて損はありません。
ワールドカップ開催前には、FIFAとスポンサー企業(コカ・コーラ社)の主催で「FIFAワールドカップ・トロフィーツアー」が行われます。
これは本物の優勝トロフィーを世界各国に巡回展示するイベントで、大会ごとに数十か国を訪問します。過去には1回のツアーで約80~90か国、延べ13万km以上を移動したこともあり、各国のファンにお披露目されています。
日本にも大会前になると数日間トロフィーツアーがやってきます。
例えば2010年南ア大会の前には東京・原宿で一般公開イベントが行われ、多くのファンがガラスケースに収まったトロフィーと記念撮影を楽しみました。
トロフィーツアーでは直接触れることはできませんが、生で本物を拝める貴重なチャンスです。開催情報はワールドカップ前にFIFAやニュースで告知されるので、見逃さないようチェックしましょう。
ワールドカップの抽選会やFIFA関連イベントなどで、本物のトロフィーが展示されることがあります。例えば大会の組み合わせ抽選会や優勝トロフィー引き渡し式典などで、ステージ上にトロフィーが飾られる場合があります。
また、優勝国の凱旋イベントで一時的に一般公開されるケースもまれにあります(ただしこれらは基本レプリカの場合が多いようです)。
情報は不定期ですが、「トロフィー展示」のニュースを見かけたらチャンスです。公式イベントの場合、事前応募制で一般公開されることもあります。FIFAの公式サイトや各国サッカー協会の発表をフォローしておくと良いでしょう。

インターネット通販やサッカーショップでは、原寸大レプリカ(約36cm)も販売されています。
これらは公式ライセンスではない場合もありますが、見た目の再現度は高く、ホームパーティーやイベントで盛り上がるアイテムとして需要があります。

他にもキーホルダー、ストラップ、トロフィー型チョコレートなど、トロフィーの形を模したおもしろグッズも数多く存在します。
ワールドカップ開催時期には記念グッズが多数登場するので、そうしたアイテムを集めてみるのもファンとしての楽しみです。

FIFAワールドカップの本物の優勝トロフィーについて、その歴史・特徴から秘話まで詳しく見てきました。純金製で6kg超という物理的な重み以上に、これはサッカー界における最高の栄誉を象徴する唯一無二の存在です。
盗難や紛失のドラマを乗り越え、今もなお世界中の人々を魅了する輝きを放っています。
- 現在のトロフィーはジュール・リメ杯に次ぐ2代目(改良を経て3代目)であり、1974年から使用されている。素材は18K純金、高さ36.8cm・重さ6.175kgと大きく豪華。
- 本物は常にFIFA所有であり、優勝国には表彰式後に金メッキのレプリカが贈られる。本物はFIFA本部で厳重管理され、一般人が触れることは許されない。
- 初代トロフィーには盗難事件などの逸話があり、現在も本物は行方不明となっている(ブラジルにあるのは複製)。
- 本物を見る方法としては、FIFA博物館の訪問やトロフィーツアーへの参加が挙げられる。触れることはできないが、そのオーラを間近で感じ取ることができる。
最後に、このトロフィーが持つ意味について触れておきます。
それは単なるサッカー大会の優勝カップではなく、「世界中の夢と情熱の結晶」だということです。幾多の名勝負、歓喜の瞬間、悔し涙…あらゆるドラマが積み重なって、このトロフィーの価値を作り上げています。
その本物に刻まれた傷一つひとつさえ、サッカー史の生きた証と言えるでしょう。
もしあなたが幸運にも本物のトロフィーを目にする機会があれば、その黄金の輝きの向こうに歴代チャンピオンたちの栄光と努力に思いを馳せてみてください。