ケビン・デブライネ(Kevin De Bruyne)は現代サッカーを代表するトップクラスのミッドフィールダーです。
その基本ポジションは中盤で、主に攻撃的ミッドフィールダー(トップ下)としてプレーしますが、状況に応じて様々な役割をこなす柔軟性も持ち合わせています。
本記事では、デブライネの基本的なポジションとマンチェスター・シティにおけるフォーメーション上での役割、起用される中盤の位置、実際のプレーデータ、プレースタイルの凄さ、他のトップ選手との比較、そして指揮官ペップ・グアルディオラとの関係性に至るまで徹底解説します。

Nights at the Etihad!
— Kevin De Bruyne (@KevinDeBruyne) January 31, 2024pic.twitter.com/mK9cwqCMTF
デブライネの基本ポジションはミッドフィールダー(MF)です。
その中でも特に攻撃的MFとしての役割が際立っており、前線と中盤のつなぎ役・チャンスメーカーとしてプレーすることが多いです。
いわゆる「トップ下」(前線のすぐ後ろで攻撃を司るポジション)でプレーする機会が多く、豊富な運動量と高い戦術眼を活かしてピッチ全体を動き回ります。
しかし、デブライネは単なるトップ下に留まらない万能型のMFでもあります。
マンチェスター・シティやベルギー代表での起用を見ると、状況によってインサイドハーフ(3センター中の左右の中央MF)やセントラルMF(中盤の中央でゲームメイクするポジション)としてもプレーしています。
例えば試合によっては右サイドに流れてウイングのように振る舞ったり、時には最前線でフォールス9(偽9番)としてプレーしたことさえあります。
このように、デブライネは中盤を中心に前線からサイドまで複数のポジションをこなせる柔軟性が特徴です。
一般的にデブライネは「攻撃的ミッドフィールダー」とカテゴライズされます。実際、その卓越した創造性とパス能力から、チームの攻撃を組み立ててチャンスを演出する役割を任されることがほとんどです。
一方で守備時には中盤に下がってプレッシングやボール奪取にも貢献し、攻守に渡り存在感を発揮します。こうした万能さゆえに、デブライネは時代のサッカー戦術に適応した新時代の司令塔と言えるでしょう。
Istanbul it is!
— Kevin De Bruyne (@KevinDeBruyne) May 18, 2023pic.twitter.com/G9wlK1aTeV
デブライネが所属するマンチェスター・シティでは、ペップ・グアルディオラ監督の下で様々なフォーメーションが採用されてきました。その中でデブライネは常に攻撃のキーマンとして重要な役割を担ってきています。
シティ加入当初(2015-16シーズン)は4-2-3-1のトップ下で起用されることもありましたが、近年は4-3-3のインサイドハーフとしてプレーするケースが増えています。

グアルディオラ体制初期の2017-18シーズン、シティは基本フォーメーションを4-3-3に固定し、中盤の右インサイドハーフにデブライネ、左にダビド・シルバを配置しました。このデブライネとシルバのコンビは当時のシティ攻撃の心臓部であり、彼らが中盤で取るポジショニングによって相手守備陣を動かし、スペースを生み出していました。
デブライネは中盤右寄りのハーフスペース(※サイドと中央の中間のエリア)でボールを受けては鋭いスルーパスやクロスを供給し、チームの得点機を演出しました。
その後もシティの戦術変化に伴いデブライネの役割にも微調整が加えられています。例えば4-2-3-1を用いる試合では、デブライネが中央の攻撃的MF(トップ下)としてプレーし、2人のセントラルMF(いわゆるボランチ)の前でフリーロールを与えられることもあります。
一方、ストライカー不在の試合(特にグアルディオラが伝統的CFを置かずに戦った試合)では、デブライネが最前線に偽9番的に入る奇策も見られました。
実際、2020年2月のUEFAチャンピオンズリーグ・レアルマドリード戦で、グアルディオラはデブライネを驚きの最前線起用(実質的にはトップ下とFWの中間のような役割)で先発させ、これが功を奏しています。
デブライネ自身もその試合でアシストとゴール(PK)に絡む活躍を見せ、柔軟な戦術適応力を証明しました。

上のヒートマップはデブライネのあるシーズンにおけるプレーエリアの分布を示したものです。赤く濃くなっている部分が彼が特によくボールに関与している場所を示していますが、中盤右寄りから相手ペナルティエリア手前にかけて広い範囲でプレーしていることが分かります。
これこそがマンチェスター・シティにおけるデブライネの主戦場であり、彼が右のインサイドハーフ~トップ下にかけて自由に動きながらチャンスメイクしている様子を如実に物語っています。
また、時折左サイドや自陣深くまで色が見えるのは、必要に応じてサイドチェンジの起点になったりビルドアップを助けるために下がって受けたりしているからです。
グアルディオラのもとでデブライネは定位置に縛られず流動的に動くことを求められており、それによって相手守備網にギャップを作り出す役割を担っているのです。
このようにマンチェスター・シティではフォーメーションや戦術が変遷しても、デブライネの役割自体は一貫してチームの攻撃の核であり続けています。彼はフォーメーション上では中盤に名を連ねつつも前線との架け橋として自由に動き回り、ゴールチャンスを創出する司令塔の任を担っているのです。
Brilliant win today!
— Kevin De Bruyne (@KevinDeBruyne) March 4, 2023pic.twitter.com/ED2EbSbQDS
デブライネほど多才なミッドフィールダーになると、一言で「ここが定位置」と決めつけるのは難しいものがあります。
実際、監督やチームの状況によってトップ下・インサイドハーフ・セントラルMFと中盤の中でも細かく異なるポジションで起用されています。それぞれの違いとデブライネの役割を整理してみましょう。

トップ下とはフォーメーション上前線の1枚後ろ、最も攻撃的なMFの位置です。
デブライネはこのポジションでプレーする際、自由に動いてボールを受け、ラストパスやミドルシュートで攻撃のフィニッシュに関与します。
ベルギー代表では典型的なトップ下として起用されることが多く、前線のルカクらにスルーパスを通したり自ら遠目からシュートを狙ったりします。
またマンチェスター・シティでも試合によっては4-2-3-1のトップ下に入り、両ウイングとワントップを背後からサポートします。トップ下のデブライネは攻撃の潤滑油かつ心臓部であり、彼の視野と創造性が存分に発揮されるポジションと言えます。

インサイドハーフとは4-3-3などで採用される中盤3枚の左右の位置、つまり攻撃と守備のバランスも求められる中央MFのことです。デブライネはシティでこのポジションにつくことが多く、右IHとしてプレーする場合が主流です。
IHの役割は中盤でパスの受け手・出し手となりつつ、ときに前線に飛び出して攻撃に厚みを加えることです。
デブライネはIHとしてプレーする際、味方DFやアンカー(守備的MF)からビルドアップのパスを引き出し前を向いて攻撃を組み立てます。
またタイミングを見て相手DFラインの前後のスペース(ハーフスペース)に走り込み、抜け出したところへボールを受けてアシストを供給したり、自身がペナルティエリアに進入してシュートに持ち込んだりもします。
IH起用時のデブライネには攻撃参加と守備の切り替えの両面が求められますが、彼は走力と戦術眼でそれを両立し、チームに「攻守のリンク」をもたらしています。

広い意味ではIHも中央のMFですが、ここではより低い位置のセンターミッドフィールダー(ボランチ)としての役割を指します。
デブライネは本職こそ攻撃的な位置ですが、必要に応じて中盤底に近い位置まで下がってプレーすることもあります。
例えば試合展開によっては、一時的にロドリやフェルナンジーニョ(守備的MF)と横並びになり、後方からロングフィードを送ったりゲームメイクに参加したりする場面も見られます。
本人も「自分は純粋な10番(トップ下)というより8番(センターMF)だ」と語ったことがあるように、中盤でボールに多く触れてリズムを作る役割にも適性があります。
セントラルMFとしての起用は頻繁ではないものの、デブライネは優れた戦術理解とパスレンジの広さから中盤の底でも質の高い配給が可能であり、チーム事情によっては下がり目の位置で試合をコントロールすることもできます。
— Madridista 92:48 (@RMCF_Minuto93) April 4, 2025
デブライネの神スルーパス
マンチェスターシティのレジェンド
pic.twitter.com/xTooqJEl39
「キーパス」とはシュートにつながるパス、すなわちチャンスを演出したパスの数です。
デブライネはこのキーパス数で毎シーズン圧倒的な数字を記録しています。例えばプレミアリーグ2020-21シーズンでは、シーズン途中時点でデブライネが42本のチャンス創出を記録しており、これはリーグ最多のジャック・グリーリッシュ(49本)やブルーノ・フェルナンデス(44本)に匹敵する数字でした。
また、2015-16シーズンにアーセナルのメスト・エジルが記録したチャンス創出146本は単一シーズン最多記録として有名ですが、デブライネも毎年100本前後のチャンスを作り出しており、創造性において群を抜いています。
こうしたデブライネのチャンスメイク力がチームの大量得点を支えているのです。
— Madridista 92:48 (@RMCF_Minuto93) April 4, 2025
デブライネの理不尽アシスト集
マンチェスターシティのレジェンド
pic.twitter.com/qqxjC4lc31
デブライネはアシスト数においてもプレミアリーグ史に残る実績を持っています。
中でも有名なのが2019-20シーズンのアシスト数20で、これはティエリ・アンリが持っていたリーグ記録(20アシスト)に並ぶ歴代最多タイ記録です。
またプレミアリーグ全キャリア通算では2025年4月時点で118アシストをマークしており、現役選手の中でも突出しています。
実際、デブライネはプレミアリーグ年間最多アシストに与えられる「プレミアリーグ・プレーメーカー賞」を2017-18, 2019-20, 2022-23の3度受賞しており、長期にわたりリーグ最高のアシストメーカーであり続けていることが分かります。
彼のアシストの多くはオープンプレー(流れの中)から生まれており、セットプレー頼みではない点も特筆すべきでしょう。
— Madridista 92:48 (@RMCF_Minuto93) April 4, 2025
デブライネの理不尽ゴラッソ集
マンチェスターシティのレジェンド#デブライネ退団
pic.twitter.com/vaokWwWX8g
攻撃的MFとはいえゴール数も重要です。デブライネは毎シーズン安定してゴールも奪っており、プレミアリーグでは2021-22シーズンに自己最多の15ゴールを記録しています。
平均するとリーグ戦で毎年8~13ゴール程度を挙げており、中盤の選手としては非常に高い数字です。
ミドルレンジから放たれる強烈なシュートや、ペナルティエリア付近での冷静なフィニッシュなど、得点パターンも多彩です。アシスト量産だけでなく二桁得点も計上できるため、相手守備にとっては二重の脅威となっています。
個人的にデブライネに一番絶望させられたシーン
— れも (@0512_COYGnow) April 6, 2025
このゴール見た時に優勝するチーム像と勝者のメンタリティを同時に見せられた感じがして本当に悔しかった pic.twitter.com/Y0ro4AYZG6
デブライネのハードワークぶりはデータにも表れています。
とあるシーズンでは、デブライネはリーグ戦でチーム2位となる127.5kmの走行距離(約14試合時点)を記録し、全試合フル出場のロドリに次ぐ数値でした。
1試合平均にすると約11~12km前後を走っている計算で、これはプレミアリーグのMFとしてもトップクラスの数字です。またスプリント回数でもチーム上位に入り、攻守にわたって精力的に走り回っていることが分かります。
ペップ・グアルディオラ監督も「彼はまるで下部リーグの選手のようによく走る」とその献身性を称賛しており、デブライネの高い運動量が戦術遂行に不可欠となっています。
デブライネの有名なゴールのひとつ
— 影野ズン
加入初年度からこんなゴールをやってたの凄すぎるなhttps://t.co/a9ybj0RZ2Q pic.twitter.com/AJMyF3nYRJ(@coiltuuuuuurn) April 4, 2025
デブライネの凄みを支える細かなデータとして、プレミアリーグ通算でのビッグチャンス創出195回(味方が決定機を迎えるような絶好機の演出回数)、スルーパス211本、クロス数1881本などがあります。
クロス数が非常に多い一方で成功精度も高く、左右両足から繰り出される精度の高いロングフィードやクロスはデブライネの代名詞とも言えます。またデュエル(競り合い)勝利数やタックル成功率も高く、フィジカルコンタクトの局面でも強さを発揮しています。
これらの数字は、デブライネが攻撃面の華やかな才能に加えて肉体的な強さやハードワークも兼ね備えていることを示しています。
C’MONNNNNN
— Kevin De Bruyne (@KevinDeBruyne) February 15, 2023pic.twitter.com/wLn6wBRdcL
デブライネ最大の武器の一つが、そのピッチ全体を見渡す広い視野とプレーの創造性です。味方・相手の配置を瞬時に把握し、誰も予想しないタイミングやコースでパスを通す才能は突出しています。
グアルディオラ監督も「彼は普通の人間には見えないパスやプレーの閃きを持っている」と評するほどで、デブライネの視野の広さと創造的な発想は世界屈指です。
実際に彼のプレー集を見れば、DFの股下を通す驚異的なスルーパスや、相手DFラインの裏のスペースにピンポイントで落とすロブパスなど、「そこに通すのか!」という信じ難いパスが何度も登場します。
視野の広さと創造力、これこそがデブライネのプレーメイカーとしての真骨頂であり、相手にとって最も脅威な点でしょう。
デブライネは両足から繰り出されるキックの正確さでも群を抜いています。
短いグラウンダーのスルーパス、速い弾道の中距離フィード、ふわりと落とすロングボール、鋭いカーブを描くクロス、無回転気味のミドルシュート…そのどれをとっても一級品です。
特にサイドに流れてから上げる高速クロスはデブライネの代名詞で、イングランドの名手デイビッド・ベッカムになぞらえて「現代のベッカム」と評価されることもあります。
実際、彼が右ハーフスペースからゴール前に送る高速のアーリークロスは極めて精度が高く、美しい弧を描いてFWの額や足元にピタリと合います。
またパスの距離レンジも広く、10m未満のショートパスから50m級のサイドチェンジまで自在です。
パス&キックの精度と多彩さにおいて、デブライネは現役MFの中でも群を抜く存在です。
デブライネが優れているのはボールを持っている時だけではありません。ボールがない時の動き(オフザボール)でも卓越したセンスを発揮します。
相手のプレスを引き出すために意図的にポジションをとったり、僅かなスペースに入り込んでフリーでボールを受けたりと、その動きは非常に知的です。
マンチェスター・シティのポジショナルプレーにおいては、5レーン(ピッチを縦に5分割したエリア)に選手が分散して立つ戦術がありますが、デブライネはそのハーフスペース(内側のレーン)を有効活用する名手です。
相手DFとMFの間に絶妙な位置で顔を出し、受け手にも出し手にもなれるポジショニングはまさに戦術理解度の賜物です。
またデブライネは味方との連携にも優れており、ワンツーや三角形のパス交換で崩すプレーも巧みです。
こうした戦術眼とオフザボールの質があるからこそ、グアルディオラの高度な戦術にも適応し、中盤で自由を与えられているのでしょう。
プレーメイカーでありながら、デブライネは得点感覚にも優れています。
ペナルティエリア手前から放つ強烈なミドルシュートは彼のハイライトの常連であり、ゴールネットを揺らすシーンも少なくありません。
右足から放たれる無回転やドライブ回転のミドルはGKにとって脅威で、過去には30メートル級のロングシュートを決めたこともあります。
また、左足でも遜色なくシュートを打てる両足の器用さも兼ね備えています。2019年のニューカッスル戦で見せた左足ボレーシュートなど、利き足ではない左でもスーパーゴールを奪っており、相手はどちらの足も警戒せざるを得ません。
加えて、ゴール前での冷静さも光ります。飛び出しから1対1になれば正確にコースを突くシュートを蹴り込みますし、素早いカウンターでは最後尾から全力疾走で駆け上がりフィニッシュに顔を出すこともあります。
「決定力のあるMF」という希少な存在である点もデブライネの凄みの一つです。
テクニックや創造性に目が行きがちですが、デブライネは身体能力と守備面での献身も特筆すべきものがあります。身長181cm・体重約70kgと中背ながら、当たり負けしないフィジカルの強さとバランスの良さを持っています。
50/50の競り合いでも踏ん張ってボールをキープできますし、タックルも厭いません。実際プレミアリーグ通算でタックル成功率63%と高い数値を残し、デュエル勝利数も失敗を上回っています。
さらに前述のように運動量が豊富で、攻守の切り替え時には真っ先に全力疾走してプレスをかけたり、自陣まで戻って守備ブロックを形成したりします。
グアルディオラも「彼はファイターであり、強度を保ちプレスを牽引してくれる」とそのハードワークぶりを評価しています。デブライネの存在によってチーム全体の守備強度も上がり、攻守両面で彼がスイッチ役となっているのです。
Starting off the year with a big W!
— Kevin De Bruyne (@KevinDeBruyne) January 5, 2023pic.twitter.com/4r92UEjNIw
以上、ケビン・デブライネのポジションや役割について網羅的に解説しました。
デブライネは基本的に中盤の攻撃的ポジションでプレーし、マンチェスター・シティでは右インサイドハーフ~トップ下としてチームの攻撃を牽引しています。
試合状況によってはウイングやフォワードに近い位置までこなす柔軟性を持ち、まさに万能型MFとして君臨しています。
プレーデータから見ても、デブライネのチャンスメイク力(キーパス数)やアシスト数は群を抜いており、それを支える運動量やフィジカルの強さも兼ね備えています。
プレースタイル面では、広い視野と創造性、高精度のキック、戦術理解、得点力、ハードワークと、MFに求められるあらゆる要素をハイレベルで備えていることが分かりました。
他の名立たるMFと比較しても、デブライネは攻守両面のバランスと安定感で際立っており、チームに与える影響力の大きさで勝ります。ブルーノ・フェルナンデスのような得点力、エジルのようなファンタジー、モドリッチのようなゲーム支配力、そのすべてを少しずつ合わせ持ったのがデブライネだと言えるでしょう。