エムバペは陸上選手より速い?100m推定タイムとボルト比較で検証

エムバペと陸上のスピードを比べたら、どちらが速いのか。サッカー史上屈指の俊足として知られるエムバペは、「ボルト並み」と語られる一方で、ネット上には正確とはいえない数字も広まっています。この記事では、実際の計測データをもとに、その速さの実像を整理します。

こんな疑問を持つ方へ

  • エムバペが100mを走ったら何秒くらいなのか気になる
  • ウサイン・ボルトとどちらが速いのか、はっきり知りたい
  • 「最高時速44.7km」という数字を見たけれど本当か確かめたい
  • ボルトとの100m対決の話がその後どうなったのか知りたい

エムバペと陸上のスピードが比較される理由

キリアン・エムバペは1998年生まれのフランス代表FWで、2024年夏からレアル・マドリードに所属しています。移籍1年目の2024-25シーズンにラ・リーガ得点王(ピチチ賞)を獲得すると、2025-26シーズンも25ゴールで2年連続の得点王に輝きました。ゴール数もさることながら、彼の代名詞は何といっても圧倒的なスプリント能力です。

サッカー選手の速さが話題になること自体は珍しくありません。しかしエムバペの場合、その次元が違いました。ワールドカップやチャンピオンズリーグといった世界最高峰の舞台で、相手ディフェンダーを置き去りにする加速を何度も見せたことで、「サッカーの枠を超えて、陸上のスプリンターと比べたらどうなのか」という関心が世界中で高まったのです。

きっかけは2018年ワールドカップの「独走」

比較論争の原点といえるのが、2018年ワールドカップのアルゼンチン戦です。当時19歳のエムバペは自陣から約60mを独走してPKを獲得し、この試合で2ゴールを記録しました。このときのスプリントは時速37km前後と報じられ、在日フランス大使館の公式アカウントが「ウサイン・ボルト選手級の速さ」と紹介したことでも話題になりました。

ボルトが100m世界記録(9秒58)を出したときの平均時速が37.58kmですから、「一瞬とはいえ世界記録ペースに迫る速度でボールを運んだ」という点が、多くの人の想像力をかき立てたわけです。

陸上経験はある?エムバペの生い立ち

意外に思われるかもしれませんが、エムバペに本格的な陸上競技の経験は確認されていません。パリ郊外ボンディの出身で、6歳から地元クラブのASボンディでサッカーを始め、父ウィルフリードさんは同クラブの指導者でした。つまり彼のスピードは、陸上のトレーニングで作られたものではなく、幼少期からサッカーの中で磨かれてきたものです。

本人はモナコ時代、練習場の隣にあった陸上トラックで100mを走ったことがあると明かしていますが、「タイムは覚えていない。大したものではなく、平凡な記録だったと思う」と語っており、正式な計測記録は存在しません。

エムバペの最高速度は時速何キロ?計測データで検証

エムバペの速さを語るうえで、まず押さえておきたいのが実際に計測された時速のデータです。試合中のスピードはGPSやトラッキングシステムで計測されており、信頼できる数字がいくつか残っています。

キャリア最速は時速38km

エムバペのキャリア最速として広く報じられているのは時速38.0kmです。パリ・サンジェルマン在籍時の2019年、リーグ・アンの古巣モナコ戦で記録したもので、ハーフウェーライン付近からゴール前まで一気に駆け上がる場面で計測されました。この試合で彼は3ゴールを挙げています。

時速38kmは、100mをずっとこの速度で走れば約9.5秒に相当する速度域です。もちろん人間は最高速度を維持し続けられないため単純換算はできませんが、サッカーの試合中に、しかも判断や方向転換をともないながらこの速度に達すること自体が異常値といえます。

ワールドカップでの計測データ

国際大会でも高い数値を記録しています。2022年カタール大会では、FIFAのトラッキングデータでポーランド戦に時速35.3kmを計測し、大会最速級の数字として報じられました。芝の状態や試合展開に左右されるため数字は毎回変わりますが、大舞台で常にトップクラスの速度を出せる再現性が、エムバペの強みです。

「最高時速44.7km」は誤り

ここで注意したいのが、ネット上に広まっている「エムバペの最高時速は44.7km」という情報です。結論からいえば、この数字はエムバペのものではありません。時速44.72kmは、ウサイン・ボルトが2009年に100m世界記録(9秒58)を樹立した際に計測された瞬間最高速度です。

選手のGPSデータを扱う分析企業STATSportsも、「エムバペの最高速度は約38km/h、ボルトの世界記録時の最高速度は44.72km/h。両者は比較にならない」と公式に説明しています。数字が一人歩きしてエムバペの記録として紹介されるケースがありますが、計測データ上、エムバペが時速44km台を記録した事実は確認されていません。

計測場面 記録 補足
2019年 リーグ・アン モナコ戦 時速38.0km キャリア最速として広く報道
2018年 W杯 アルゼンチン戦 時速37km前後 約60mの独走でPK獲得
2022年 W杯 ポーランド戦 時速35.3km FIFAトラッキングデータ
「時速44.7km」という説 誤情報 実際はボルトの瞬間最高速度

エムバペが陸上の100mを走ったら何秒?

では、エムバペが陸上のトラックで100mを走ったら何秒になるのでしょうか。正式な記録が存在しないため断定はできませんが、参考になる推定値があります。

BBCの推定は「約10.9秒」

イギリスの公共放送BBCは2024年3月、チャンピオンズリーグのレアル・ソシエダ戦でエムバペが見せたスプリントをもとに、100mの推定タイムを約10.9秒と紹介しました。試合中の走行データから算出した参考値であり、スターティングブロックからの本格的なスタートを練習すれば変わる可能性はありますが、現時点で最も引用されている推定値です。

10.9秒は陸上の世界でどのレベルか

10秒9というタイムは、一般の感覚では驚異的な速さです。学校の運動会レベルではまず出ない数字で、陸上部で短距離を専門的に練習している高校生でも、上位層に入らなければ届かない水準といえます。

一方で、陸上のトップスプリンターの世界では話が変わります。世界のトップ選手は9秒台で走り、日本のトップ選手も9秒台から10秒0台で争っています。ボルトの世界記録9秒58と10秒9の間には約1.3秒の差があり、100m走における1秒は、ゴール地点で10m前後の差に相当します。つまりボルトと並んで走れば、エムバペがゴールする時点でボルトはすでに10m以上先でフィニッシュしている計算です。「サッカー選手としては規格外に速いが、専門スプリンターとは別世界」というのが、データから導ける公平な結論です。

なぜ「時速38km」なのに100mは10秒台後半なのか

「最高時速38kmならもっと速く走れるのでは?」と感じた方もいるかもしれません。ここには短距離走の構造が関係しています。100m走のタイムは、最高速度だけでなく、静止状態からの加速、最高速度を維持する能力、終盤の減速の少なさで決まります。サッカー選手は助走や流れの中から最高速度に到達するのに対し、陸上では完全静止からのスタートで、序盤の数十mは加速に費やされます。瞬間的な最高速度が高くても、それを100m全体で生かし切る技術は別物なのです。

エムバペとウサイン・ボルトを数字で徹底比較

「人類最速」ボルトとの比較は、エムバペのスピードを語るうえで避けて通れないテーマです。確認できるデータを並べてみます。

項目 エムバペ ウサイン・ボルト
100mタイム 推定 約10.9秒(BBC) 9秒58(世界記録・2009年)
瞬間最高速度 時速38.0km 時速44.72km
世界記録時の平均速度 時速37.58km
競技環境 芝の上・ボールあり・対人 トラック・スパイク・直線専用

「平均37.58km」と「瞬間38km」のトリック

よく紹介される「エムバペの時速38kmは、ボルトの世界記録の平均時速37.58kmを上回る」という比較には、注意が必要です。これは事実ですが、比べているのは、エムバペの一瞬の最高値と、ボルトのスタートからゴールまでの平均値です。ボルトの瞬間最高速度は44.72kmであり、瞬間同士で比べれば時速6km以上の大差があります。

時速6kmの差は、自転車でゆっくり走る速度がまるごと上乗せされているようなものです。それでも「世界記録の平均ペースと並走できる瞬間があるサッカー選手」というだけで、エムバペの異次元ぶりは十分に伝わるのではないでしょうか。

ボルトが提案した100m対決はどうなった?

2024年4月、スペインで開催されたローレウス世界スポーツ賞の場で、ボルト本人がエムバペとのチャリティー100mレースを提案しました。エムバペは「僕に勝ち目はないと思うけれど、面白そうだね。いつか時間ができたら、何か素敵なことをしたい」と前向きに応じ、世界中のスポーツファンの注目を集めました。

ただし、2026年半ばまでにレースが実施されたという公式発表は確認されていません。両者とも多忙を極める立場だけに、実現するとすればエムバペのキャリア後半になる可能性もありますが、続報が待たれる状況です。

サッカー選手と陸上選手の速さが単純比較できない理由

ここまでの数字を踏まえると、「結局どちらがすごいのか」と考えたくなりますが、実は両者の速さは競技として求められる質が根本的に異なります。この違いを知ると、エムバペのスピードの本当の価値が見えてきます。

計測条件がまったく違う

陸上の100mは、反発力の高い専用トラックの上を、スパイクを履き、直線だけを走る競技です。一方サッカー選手は、柔らかい芝の上で、ボールや相手の位置を確認しながら走ります。ボールを扱いながらの走行は歩幅もフォームも制約を受けるため、同じ人間でも計測環境によって数値は大きく変わります。エムバペの時速38kmは「サッカーという制約の中での38km」であり、条件を考えればむしろ驚異的な数字といえます。

サッカーで問われるのは「最初の20m」

陸上のスプリンターが最高速度に達するのは、スタートから60〜80m付近です。ところがサッカーでは、1回のスプリントは20〜40m程度で終わることがほとんどで、100mを全力で走り切る場面はまずありません。つまりサッカー選手に求められるのは、トップスピードそのものよりも、静止や減速状態から一気に加速する能力です。

エムバペが世界最高のアタッカーであり続けられるのは、この初速と加速が突出しているからです。ディフェンダーと並んだ状態から2、3歩で抜け出す動きは、100mのタイムには表れない、サッカー特有のスピード能力なのです。

方向転換と判断をともなう「実戦の速さ」

さらにサッカーでは、走りながらパスコースを探し、相手の重心を見て進行方向を変えます。直線を最速で駆け抜ける陸上と、認知・判断・技術をともなって加減速を繰り返すサッカーでは、鍛えられる能力も評価軸も別物です。「エムバペとボルトのどちらが速いか」という問いは、厳密には「何の速さを比べるか」で答えが変わる問いだといえます。

ファンやSNSの反応

エムバペと陸上をめぐる話題には、SNS上でもさまざまな反応が見られます。ボルトとの対決提案に対しては「ぜひ見てみたい」「夢のカードだ」と期待する声が多く見られる一方、100m推定10.9秒という数字については「ボルトと比較すること自体が陸上に失礼」「1秒半の差がどれほど大きいか」と、専門競技への敬意を求める声も見られます。

また、「サッカーをしながらあの速度はむしろ陸上選手よりすごい」という擁護的な意見もあり、競技の違いを踏まえた冷静な見方が広がりつつあるのも印象的です。異なる競技のトップ同士だからこそ、それぞれの土俵のすごさを語り合える。この話題の面白さは、まさにそこにあるといえるでしょう。

よくある質問

Q1. エムバペは陸上競技の経験がありますか?

本格的な陸上経験は確認されていません。6歳からサッカー一筋で、モナコ時代に遊びで100mを走った経験を明かしていますが、本人いわく「平凡な記録」で、正式なタイムは残っていません。

Q2. エムバペとボルトはどちらが速いですか?

純粋な走力ではボルトです。瞬間最高速度はボルトの時速44.72kmに対しエムバペは時速38.0kmで、100mでも1秒以上の差がつくと推定されます。ただし芝の上でボールを扱いながらの速度としては、エムバペの数字は世界最高水準です。

Q3. エムバペの100mの公式記録はありますか?

公式記録は存在しません。BBCが試合中の走行データから算出した「約10.9秒」という推定値が、最も広く引用されている参考タイムです。

Q4. ボルトとの100m対決は実現しましたか?

2024年4月にボルトがチャリティーレースを提案し、エムバペも前向きに応じましたが、2026年半ばまでに実施の公式発表は確認されていません。

Q5. 「エムバペの最高時速44.7km」という情報は本当ですか?

誤りです。時速44.72kmはボルトが世界記録を出した際の瞬間最高速度で、エムバペの計測データ上の最速は時速38.0kmです。

まとめ

エムバペと陸上をめぐる論点を整理すると、次のようになります。エムバペのキャリア最速は時速38.0kmで、100mの推定タイムは約10.9秒。ボルトの世界記録9秒58・瞬間最高時速44.72kmには及ばないものの、芝の上でボールを扱いながらこの速度域に達するサッカー選手は他にいません。ネットで見かける「時速44.7km」はボルトの数値の誤伝であり、正確な理解が必要です。

陸上のスプリンターとサッカー選手では、求められる速さの質がそもそも異なります。直線を走り切る速さの頂点がボルトなら、判断と技術をともなう実戦の速さの頂点がエムバペ。それぞれの土俵での「最速」を知ることで、この比較論争は何倍も面白くなります。ボルトが提案した夢の100m対決が実現する日を、楽しみに待ちたいところです。