サッカーのピッチ幅を狭めるのはあり?サイズの違いがゲームに与える影響

サッカーワールドカップ予選の中国対日本において、中国が意図的にピッチ幅を狭くしたことが話題となりました。

しかし「ピッチ幅を意図的に狭めるのはありなのか?」と疑問に思う人も多いと思います。

本記事では、サッカーのピッチ幅について詳しく解説していきます。

サッカーピッチ幅の公式ルール(FIFA基準と国内の規定)

サッカーコートの公式サイズ範囲。国際Aマッチではタッチライン長100~110m、ゴールライン幅64~75mに収める必要があり、FIFAは105×68mを推奨している。日本国内の多くの競技場もこの基準に沿っている。

サッカーのフィールド(ピッチ)は長辺のタッチラインと短辺のゴールラインで囲まれる長方形です。

そのサイズは国際サッカー評議会(IFAB)の競技規則で定められています。ただし、その規定には幅を持たせた範囲が設定されています。

一般的な公式戦ではタッチライン長90~120m、ゴールライン幅45~90mという幅広い範囲が許容されています​。一方で国際試合の場合はこれより厳しく、タッチライン長100~110m、ゴールライン幅64~75mとされています。

FIFAはワールドカップなど主要大会に向けて105m×68mのフィールドを推奨しており、多くのスタジアムでこのサイズが標準となっています。

実際、ワールドカップやオリンピックではピッチサイズを105×68mに統一する規則があり、欧州選手権(EURO)でも105×68m未満のスタジアムは開催地から除外される例があります(リヴァプールのアンフィールドは縦101mしかなく開催候補から外れた)。ラインの幅にも規定があり、白線の太さは12cm以内と細かなルールも存在します。

Jリーグにおけるピッチ幅と学校・少年サッカーとの違い

日本のプロサッカーであるJリーグでは、実は全てのスタジアムでピッチサイズが統一されています。

Jリーグの定めるスタジアム基準によれば、ピッチ寸法は105m×68mであることが必須条件となっており、国内のJ1・J2・J3リーグ公式戦はすべてこの広さで行われています。つまりJリーグでは常にワールドカップ基準と同じサイズ(幅68m)で試合をしているわけです。これは国際大会開催時にも適応しやすい利点があります。

一方、高校・大学など学校サッカーやジュニア年代のサッカーでは、必ずしもプロと全く同じサイズとは限りません。

高校サッカーの公式大会でも基本的には105×68mのフルサイズピッチを使用しますが、学校のグラウンド事情によっては規則の範囲内(例えば100×64m程度)で行われるケースもあります。

また小学生年代など少年サッカーでは、プレー人数や発育段階に応じてフィールドを縮小することが推奨されています。日本サッカー協会(JFA)は8人制サッカーを推奨しており、その場合ピッチは縦68m×横50m程度、つまり大人のコートのおよそ半分ほどの大きさに設定されます。

このように年代やレベルに応じてフィールドの幅も調整され、ジュニアではゴールも小さく設定されます。

要するに、プロの公式戦は世界基準に準じた幅68mで統一されている一方、育成年代では人数とフィールドを小さくしてゲームを行う、といった違いがあります。

ホームチームが意図的にピッチ幅を狭めるのはルール上可能か

サッカーでは昔から、ピッチコンディションを含めホームチームが有利な環境を整えることが半ば容認されてきました。

ではピッチの「幅」そのものを意図的に変更することはルール上認められているのでしょうか?結論から言えば、競技規則の範囲内であれば可能です。

前述した通り国際試合なら幅64~75mの範囲内であればルール上問題はなく、ホームチームがその範囲内で通常より狭い幅に設定することも許されています。

ただし大会のレギュレーションやリーグの規定によっては事前申請や統一サイズの取り決めがある場合もあります。

例えばイングランド・プレミアリーグでは2012年以降「原則105×68m」とする統一ルールがあり、スタジアムの構造上どうしても不可能な場合を除き各クラブはサイズを合わせています。

このため現在のプレミアでは勝手に幅を狭めたり広げたりできません(過去には黙認されていた時代もありました)。

一方、ワールドカップ予選など国際大会予選ではスタジアムごとにサイズが異なるケースも散見され、ホーム側がピッチ寸法を変更して臨むことも現実に起きています。

では、実際にホームチームがピッチ幅を調整した例を見てみましょう。その多くは「強敵相手に守備的に戦いたい」局面で行われており、歴史的にも様々なエピソードが残っています。

1987年:レンジャーズ vs ディナモ・キエフ(欧州杯)

スコットランドの名門レンジャーズは、1987-88シーズンの欧州チャンピオンズカップ1回戦でソ連(当時)の強豪ディナモ・キエフと対戦。レンジャーズのグレアム・スーネス監督は「キエフのウイングは危険だ」と判断し、ホームでの試合でピッチの幅を意図的に狭める策をとりました。

その結果、ホームのレンジャーズは2-0で勝利し次のラウンドに進出しています。この行為は試合後「イギリス紳士のすることではない」と物議を醸しましたが、それほどまでにピッチ幅は戦術的に無視できないという例と言えるでしょう。

2000年:ウェールズ vs ブラジル(親善試合)

2000年5月、ウェールズ代表は強豪ブラジルとの親善試合で、当時の監督マーク・ヒューズがピッチのタッチラインを内側に引き直す決断をしました。

ブラジルの両ウイング(リバウドやゼ・ロベルト)の突破力を警戒し、幅を狭めて対抗しようとしたのです。

しかし結果は0-3でウェールズの完敗。狭いピッチにもかかわらずブラジルのウインガーたちに好き放題にやられてしまい、この試みは功を奏しませんでした。

強力な攻撃陣には通用しなかった一例ですが、「相手の長所を消すためにピッチ寸法まで変える」という発想自体は当時話題になりました。

2010年代:ストーク・シティの戦略(プレミアリーグ)

ストーク・シティはトニー・ピュリス監督の下で、ホームゲームで可能な限りピッチを狭く使う戦術を度々取っていました​。

特にパスワークに優れサイド攻撃の得意なアーセナルとの対戦では、敢えてフィールドを絞って中央で肉弾戦を挑み、同時にスローイン攻勢を仕掛けるという狙いがありました。

プレミアリーグの規定上許される範囲でラインを引き直していたため、明確に「ライン幅〇m縮小」といった記録は残っていませんが、当時のメディア報道や相手監督のコメントからもその意図は察せられます。

2024年:日本 vs 中国(W杯アジア予選)

ホームチームがピッチ幅を狭めた例(2024年、中国アモイ)。新たに引かれたタッチラインの外側に通常より広い緑地帯が生まれ、ピッチが横方向に縮小されていることが分かる

2024年11月に行われた2026年ワールドカップアジア最終予選の中国ホームゲームで、ピッチ幅が通常より約3m狭く設定される出来事がありました​。

中国・アモイのスタジアムで行われた日本代表との試合で、中国側がFIFA推奨68mより両サイド1.5mずつ削った約65m幅のフィールドを用意したのです。

この調整はIFAB競技規則の範囲内(64~75m)であり完全に合法でした。試合前日に日本側もその事実を知らされたものの、戸惑いは否めず、日本代表は狭いピッチに苦戦を強いられました。

中国メディアも「日本の俊敏なウイング対策として理解できる」とこの策を報じ、ピッチを狭めたことで中国守備陣の連携が良くなったと分析しています。

しかし結果的に試合は日本が3-1で勝利し、中国の奇策は大勢に影響を与えるまでには至りませんでした。

このケースは賛否両論を呼び、「ピッチ幅でこんなに展開が変わるとは…」「ルール上OKでもフェアじゃない」といった声や、逆に「自分たちのJリーグの○○スタジアムでも取り入れては?」という冗談交じりの反応まで、日本国内でも大きな話題となりました​。

試合後のインタビューでは久保建英選手が「とにかく狭かった」と答えています。

久保建英
久保建英

とにかく狭かったですね。テレビで見ているより相当狭くて、相手もスライドを意識して、広いピッチでもスライドの力でここ何試合かはカウンターでも点を取ってきている。狭くなると余計に、並大抵のヨーロッパでやっているチームよりも速いイメージも僕の中ではありましたし、ちょっとびっくりしました

これらの事例からも分かるように、ホームチームが意図的にピッチ幅を調整するケースは実際に存在します。そしてその目的の多くは「相手の強みを殺し、自分たちの戦いやすい環境を作る」ことにあります。もっとも近年では、国際大会の予選でも105×68mで臨むのが通例となりつつあり、極端なサイズ変更はあまり見られなくなりました(2024年の中国のケースは異例と言えるでしょう)。Jリーグではルール上そもそも変更ができませんし、欧州でも主要リーグは統一規格が主流です。そのためピッチサイズの可変性を利用したホームアドバンテージは昔より減っているのが現状です。しかし、スタジアムの構造上生じる微妙なサイズ差や、過去の大胆なエピソードは、サッカーの戦術・駆け引きの奥深さを物語るものとして今も語り草になっています。

ピッチ幅の違いによる戦術的影響

ピッチの横幅が数メートル違うだけで、試合の戦術や展開に変化が生まれることがあります。

一般的に「狭いピッチ=守備的に有利」「広いピッチ=攻撃的に有利」と言われることが多いですが、実際の傾向も概ねこの通りです。

ピッチ幅が狭い場合(幅を狭めた場合)

横方向のスペースが限られるため、守備陣形をコンパクトに保ちやすくなります。

相手のサイド攻撃に対して素早く横スライドして人数をかけやすく、ウイングを起点とする攻撃を封じ込みやすくなる利点があります。

実際、ピッチ幅を通常より約3m狭く設定した中国代表チームは、日本との試合で4バックのディフェンスラインが素早くスライドし、日本の両サイド攻撃を窮屈にさせました。縦へのスルーパスやサイドチェンジも通りにくくなり、攻撃側にとっては「いつもよりスペースがなく攻めにくい」感覚になります。

守備的なチームにとって狭いフィールドは文字通り自陣を狭く守るのに好都合で、相手に時間とスペースを与えず泥臭い展開に持ち込みやすいのです。

実例として、イングランドのストーク・シティは対アーセナル戦などで意図的にピッチを可能な限り狭く使い、密集戦を仕掛けました。これは自慢の堅守を発揮するとともに、ロングスローの名手ロリー・ディラップの投入効果を高める狙いもありました。狭いピッチではタッチラインからゴール前までの距離が短く、彼の長いスローインがより脅威となったからです​。

このように横幅を絞った展開は試合のテンポ自体も遅くする傾向があり、守備側は時間稼ぎもしやすくなります​。

一方で、ピッチを狭めることにはデメリットや裏目もあります。

攻撃側にスペースを与えない反面、自軍もカウンター時にサイドを有効活用しづらくなるため得点チャンスを増やしにくくなります。

またセットプレーの場面では、幅が狭い分だけコーナーキックからゴールまでの距離が短くなり、攻撃側に有利になる可能性も指摘されています。

「ピッチ幅を削った結果、コーナーキックの距離も短くなって日本にとって簡単になったのではないか」という声が実際日本戦後にファンから上がったほどです。事実、日本代表は狭いピッチに苦戦しながらも前半に2本のCKから得点しており、この作戦の明暗が分かれる形となりました。

このようにピッチ幅の調整は諸刃の剣であり、守備を固めてもセットプレーで失点するリスクも孕んでいるのです。

ピッチ幅が広い場合(標準より広めの場合)

横方向に十分なスペースがあると、攻撃側はサイドを大きく使った展開がしやすくなります。

ウイングを起点にタッチライン際をえぐったり、大きなサイドチェンジで相手守備を揺さぶったりといったワイドな攻めが有効になります。

狭いピッチでは密集しがちな局面でも、広いフィールドなら選手間の距離を保ってパスを回せるため、ボール保持に長けたチームやテクニックのある選手たちに有利です。

実際、ポゼッション志向で知られるペップ・グアルディオラ監督は、マンチェスター・シティ就任時に本拠地の芝を短く刈り揃えるよう指示したエピソードがあります。ピッチサイズ自体は変更しなかったものの、8,500平方ヤード(約7,100㎡)にもなる広大なエティハド・スタジアムのフィールドを最大限に活かすための工夫でした。

広く長いピッチではパスやドリブルがしやすくなり、グアルディオラの志向する素早いパス回し(ティキタカ)との相性が良いとされています。

また、走力・体力に優れたチームも大きなピッチを歓迎します。アトレティコ・マドリードのようにハードワークを厭わないチームは105×68mフルサイズのピッチを用い、自慢のフィジカルとスタミナで相手を消耗させる戦術をとっています​。

実際、彼らの本拠地は広大であることに加え熱狂的な雰囲気も相まって、「相手を肉体的にも消耗させるフィールド」と恐れられています​。

もっとも、極端にピッチが広い場合は守備側もカバーすべき面積が増えるため、運動量が要求される分だけ攻撃チャンスとともにリスクも増えます。

そのため、多くのチームは与えられた標準サイズ内で戦術を工夫することになります。

総じて、「狭い=守りやすく攻めにくい」「広い=攻めやすく守りにくい」傾向はあるものの、ピッチサイズだけで試合の勝敗が決まることは稀です。

他の要素(選手の技量やコンディション、天候、ピッチ状態、観客の後押しなど)の方が影響は大きく、監督が「敗因はピッチのサイズだ」などと言えば笑い話にされるくらいです。それでもフィールドの広さ・狭さが戦術に影響を与えるのは確かに事実であり、試合ごとの細かな駆け引きの一環としてピッチ幅が語られることもあるのです。

スタジアムごとのピッチ幅比較データ

「サッカーのピッチはどこでも同じ」と思われがちですが、実はスタジアムによって微妙にサイズが異なる場合があります​。

国内のJリーグは前述の通り統一されていますが、海外では歴史的経緯やスタジアムの構造上、幅(横幅)が基準と違うケースも存在しました。

近年は欧州トップリーグでも国際基準への統一が進んでいますが、それでも過去には各クラブのホームで大小さまざまなピッチが見られました。

FIFA推奨サイズの代表例

スペインのバルセロナ(カンプノウ)、レアル・マドリード(サンティアゴ・ベルナベウ)、イングランドのウェンブリーなど、多くのビッグクラブや代表戦開催スタジアムは105×68mで統一されています​。

UEFAチャンピオンズリーグでも基本的に各クラブはこのサイズを遵守しており、ピッチ幅68mが標準です。

幅が狭いスタジアムの例

イングランドでは古いスタジアムに幅が狭めのピッチが存在していました。

例えばリヴァプールのアンフィールドは101×68mで、横幅は68m確保していますが縦が標準より4m短い設計です​。

エバートンのグディソン・パークも100×68mと縦長がやや短く、横幅68mは確保しつつ全体面積は小さめでした。

またウェストハム・ユナイテッドがかつて本拠地としていたアップトン・パークでは約100m×64mと、横幅64mしかない非常に狭いフィールドでした。

これはFIFA国際試合基準の最低幅64mギリギリで、プレミアリーグでも当時最少クラスのピッチ幅でした。

スコットランド・セルティックの本拠地では幅64mしかなかったという記録もあります(国際大会では使用不可)。このような横幅64~66m程度の狭いピッチは、現在ではトップレベルでは珍しいものの、過去には存在していたのです。

幅が広いスタジアムの例

稀なケースですが、横幅が68m以上のフィールドを持つクラブもありました。

マンチェスター・シティは本拠地を改修する前、かつて約106.5m×71mという非常に大きなピッチサイズを誇っていたことがあります。横幅71mはFIFA基準(最大75m)の範囲内ですが、推奨を上回る広さでした。

しかしプレミアリーグが2012年にピッチサイズ統一ルールを決めたこともあり、現在エティハド・スタジアムのピッチは標準的な105×68mに収まっています。

他にもスペイン・アトレティコマドリーの本拠地ワンダ・メトロポリターノは105×68m超(115×74ヤード)の広大な芝生面積を持ち、リーガでも有数のサイズです。

このように、大金を投じて新スタジアムを建設する際にはできるだけ最大サイズを確保する傾向があります。

サッカーのピッチ幅に対するみんなの意見・反応

まとめ

普段何気なく見ているサッカーのピッチですが、「幅」ひとつとっても奥深い背景と戦略が存在することが分かります。

ルール上は幅64~75mの範囲であれば自由に設定できるものの、現代のトップレベルでは68m前後に統一されるのが主流です​。

しかし歴史をひも解けば、ピッチ幅の違いを活用したホーム有利の戦術や、スタジアムごとの個性が数多く存在しました。

本記事ではそうした視点から、ルール・データ面の明確な違いだけでなく、戦術的思惑や観戦文化の側面まで掘り下げてみました。

ピッチの広さはサッカーにおける「舞台装置」の一部です。そのサイズに思いを巡らせることで、ホームとアウェーの攻防や試合展開の理由が見えてくることもあります。

次にスタジアムで観戦するときは、ぜひピッチの幅にも注目してみてください。きっといつもとは違った視点で試合を楽しめることでしょう。サッカー観戦の奥深さがさらに増すはずです。