ゴールラインテクノロジーがないリーグはなぜ導入しないのか。ゴールラインテクノロジーが導入されていないリーグはなぜ存在するのか。ラ・リーガやJリーグなど未導入の背景にあるコスト・技術・運営上の理由を詳しく解説します。
ゴールラインテクノロジーとは?仕組みと概要をわかりやすく解説

ゴールラインテクノロジー(GLT)とは、サッカーの試合においてボールがゴールラインを完全に越えたかどうかを正確に判定するための電子補助システムです。ホークアイ(Hawk-Eye)、GoalRef、GoalControlなどの複数のシステムが存在し、国際サッカー評議会(IFAB)によって2012年7月に公式競技規則に組み込まれました。
仕組みはシンプルかつ精密です。スタジアムの各所に設置された複数台の高性能カメラがボールの位置をリアルタイムで追跡し、ボールがゴールラインを1ミリでも完全に越えた瞬間、審判員の腕時計型デバイスへ自動的に通知が送信されます。この通知は1秒以内に届くよう設計されており、試合の流れを止めることなく正確な判定を補助できる点が最大の特徴です。
2024年9月時点でFIFAの公式ウェブサイトには144のスタジアムがGLT認定設備として掲載されており、そのうち135がホークアイ・システムを採用しています。世界的に普及が進んでいるように見えますが、実際には導入できていない主要リーグがいまだ複数存在します。
ゴールラインテクノロジー導入のきっかけとなった「世紀の誤審」
GLTが本格的に世界の舞台へ登場するきっかけとなったのは、2010年南アフリカW杯での衝撃的な誤審です。決勝トーナメントのイングランド対ドイツ戦で、イングランドのフランク・ランパードが放ったシュートはクロスバーを叩いてゴールラインを明らかに越えていましたが、審判はノーゴールを宣告。この判定がきっかけとなり、技術的なゴール判定システムの導入議論が加速しました。
その後、2012年に日本で開催されたFIFAクラブW杯でGLTが初めて試験導入され、豊田スタジアムにはホークアイ、横浜国際総合競技場にはGoalRefが使用されました。そして2014年のブラジルW杯では本格採用が実現し、GLTは世界最高峰の舞台で公式ツールとして認知されるようになりました。
ゴールラインテクノロジーが導入されていない主なリーグ・大会一覧

現在GLTを採用している主要リーグは、イングランドのプレミアリーグ(2013-14シーズン導入)、フランスのリーグアン、ドイツのブンデスリーガ、イタリアのセリエAの4リーグが代表格です。オランダのエールディヴィジも2023-24シーズンから全スタジアムへの導入を完了しています。
一方、以下のリーグではゴールラインテクノロジーが導入されていません。
- ラ・リーガ(スペイン):主要欧州リーグの中でGLTを持たない唯一のリーグ
- Jリーグ(日本):2025年現在も未導入が続いている
- MLS(アメリカ):コスト面の問題から見送りが続く
世界トップクラスの試合を毎週開催しているラ・リーガが未導入であることは、サッカーファンの間でたびたび議論の的となっています。なぜこれらのリーグではゴールラインテクノロジーが導入されないのでしょうか。次のセクションで詳しく見ていきます。
ゴールラインテクノロジーが普及しない5つの理由

①導入・運用コストが高額すぎる
GLTが普及しない最大の理由は、導入にかかるコストの高さです。プレミアリーグがホークアイを導入した際には、1会場あたり約25万ポンド(当時の換算で約4,000万円)の費用が投じられました。Jリーグで試算すると、J1の20クラブ全体への導入だけで8億円以上、付随するメンテナンスや運用コストを含めると約10億円にのぼるとされています。野々村芳和Jリーグチェアマンもこの点を明確に述べており、スタジアムの構造によっても導入可否が変わるため、一律の導入は非常に困難だと結論づけています。
MLSでも状況は似ており、1スタジアムあたりの設置費用は約26万ドル、さらに1試合あたり3,900ドルの運用コストが継続的に発生します。MLSコミッショナーのドン・ガーバー氏は「これだけの投資が、わずかな場面のためだけに見合うのか」と公式に疑問を呈しています。
②ラ・リーガの方針:「コストに見合わない」
欧州5大リーグの中で唯一GLTを導入していないラ・リーガの姿勢は特に注目されます。ラ・リーガのハビエル・テバス会長は、GLT導入コストを約300万ユーロと試算したうえで「費用が高すぎる」として明確に拒否の立場をとってきました。世界的に見ても有数の収益を誇るリーグでさえ、この姿勢をとっていることは、コスト問題の深刻さを物語っています。
③VARで代替できるという考え方
GLTの代わりにVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)を優先導入するというアプローチも、未導入リーグの共通した方針のひとつです。Jリーグでは、GLTよりもVARの方が汎用性が高く、費用対効果の面で優れているという判断からVAR導入を先行させてきた経緯があります。VARはゴール判定だけでなく、PK判定やレッドカードの場面など幅広い局面に対応できるためです。
ただし、この考え方には落とし穴があります。VARはゴールラインを0.数ミリ単位で判定する精度を持たないケースもあり、GLTほどの確実性はありません。ラ・リーガはVARを使用しているものの、GLT専用のカメラ配置がないため、微妙なゴール判定を覆せないケースが実際に起きています。
④スタジアムの構造・設備環境の問題
GLTの設置には、スタジアムの形状や既存設備との適合性が大きく関わります。高性能カメラを最適な角度で複数台設置できるだけのスペースや建築的条件が整っていないスタジアムでは、そもそも導入が難しいケースもあります。Jリーグのように多様な規模・築年数のスタジアムが混在するリーグではとくに影響が大きく、全クラブへの一律導入が困難な要因のひとつとなっています。
⑤費用対効果への疑問:「何試合に一度使われるのか」
GLTが実際に判定に関与する場面は、1シーズンを通じてもそれほど多くありません。「莫大なコストをかけて導入しても、実際に使われる機会は限られる」という費用対効果への疑問は、リーグ運営者の間で繰り返し議論されてきた点です。MLSのガーバーコミッショナーの発言もまさにこの考えを反映しています。
VARとゴールラインテクノロジーの違い:どちらが優れているのか

VARとGLTはどちらも誤審を減らすための技術ですが、その役割と精度には明確な違いがあります。
| 項目 | ゴールラインテクノロジー(GLT) | VAR |
|---|---|---|
| 対応場面 | ゴール判定のみ | ゴール・PK・退場など複数 |
| 判定速度 | 1秒以内に自動通知 | 映像確認に数分かかる場合も |
| 精度 | ミリ単位の高精度 | カメラアングルによって限界あり |
| 試合への影響 | ほぼなし(自動) | 中断が生じる |
| 導入コスト | 1会場あたり数千万円規模 | GLTより低コストの場合が多い |
ゴール判定の確実性という観点だけで比較すれば、GLTはVARを大きく上回ります。VARはゴールかどうかを映像で確認しますが、カメラの配置やアングルによっては0.数ミリの差を正確に判定しきれないことがあります。一方でGLTは専用の複数カメラがボールのみを追跡し、ミリ単位の精度でラインを越えたかどうかを自動判定します。
ただし、VARはオフサイドやハンド、ファウルなど幅広い場面に対応でき、1つのシステムで多くの誤審リスクをカバーできる点で実用性が高いとも言えます。理想的には両方を併用することが望ましいですが、コスト面からどちらかの選択を迫られるリーグにとっては、VARが優先される傾向があるのが現状です。
未導入リーグでの誤審事例と今後の導入展望

ラ・リーガ:エル・クラシコでの誤審騒動
GLT未導入がいかに問題を引き起こすかを象徴する出来事が、2024年4月21日に行われたエル・クラシコ(レアル・マドリード×バルセロナ)です。バルセロナのラミン・ヤマルが放ったシュートがゴールラインを越えた疑惑が浮上しましたが、ラ・リーガにはGLTが存在しないため判定はノーゴールのままとなりました。
この判定にバルセロナのGKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンは激しく反応し、「恥だ。最も重要なことに金が使われていない」と怒りをあらわにしました。世界中が注目するビッグマッチで、テクノロジーの欠如が結果に影響しかねない状況は、ラ・リーガへの批判をさらに高める結果となりました。
Jリーグ:2019年の明らかなノーゴール誤審
日本でも深刻な事例が起きています。2019年5月のJ1第12節、浦和レッズ対湘南ベルマーレ戦では、映像で見ても明らかにゴールラインを越えていたボールがノーゴールと判定されました。この事態を受け、当時の村井満チェアマンはGLT先行導入の議論の可能性を示唆しましたが、コストの壁は依然として高く、実現には至っていません。
今後の導入展望:技術コストの低下がカギ
ゴールラインテクノロジーの普及を阻む最大の壁はコストですが、テクノロジーの進化とともに機器の価格は徐々に低下していく可能性があります。また、半自動オフサイドテクノロジーなど関連技術との統合によって、導入の費用対効果が改善されることも期待されます。
Jリーグにおいては、将来的なスタジアム建設・改修のタイミングでGLTを組み込む設計を採用するという方向性も現実的な選択肢のひとつです。ラ・リーガについても、誤審騒動が繰り返されるなかで世論やクラブからの圧力が高まっており、テバス会長の方針が変わる可能性もゼロではありません。
ゴールラインテクノロジーが「あるのが当たり前」の時代が本当に到来するためには、技術コストの低下とリーグ運営者の意識変化、そして何よりも「正確な判定こそがスポーツの信頼を守る」という共通認識の広がりが必要です。誤審に揺れるたびに議論が再燃するこの問題は、世界中のサッカーファンが引き続き注目すべき重要なテーマであり続けるでしょう。
フットボール戦士 
