- 怪我明けに落ちた体力は、どんな順番で戻せばいい?
- いつから走っていい?何を待てばいい?
- 復帰したのに調子が悪い・怖いのはなぜ?
サッカーの怪我明けに体力を戻すには、医師・理学療法士の許可が出た範囲で、軽い運動から試合に近い運動へと段階を踏んで負荷を上げていきます。次の段階へ進むかどうかは日数ではなく、痛みや腫れが増えないかという体の状態で決めます。
この記事では、JFA(日本サッカー協会)とFIFA(国際サッカー連盟)の公開資料、査読のある論文で確かめた内容だけを使い、2026年9月27日時点の情報で整理します。
※この記事は一般的な情報の紹介で、診断や治療の代わりにはなりません。復帰の時期と内容は、必ず担当の医師・理学療法士の指示に従ってください。
怪我明けの体力は「管理された練習」から「試合に近い練習」へ段階的に戻す
イングランド・プレミアリーグのクラブでリハビリに携わる研究者らは、2019年に英国スポーツ医学誌(BJSM)で、復帰までの練習を5つの段階に分ける考え方を発表しました。最初はゆっくりまっすぐ走るだけで、ボールもほとんど使いません。そこから方向転換、予測できない動き、試合と同じ強さへと少しずつ上げていきます。
この論文は、けがのあと早く練習や試合に戻りすぎると再発のリスクが高まると書いています。また、次の段階へ進む決め手は日数ではなく、体の状態が基準を満たしたかどうかだとしています。
復帰の判断を「最後に1回だけ下すもの」と考えないことも大切です。2016年にスイスのベルンで専門家17人がまとめた合意声明は、競技への復帰は回復・リハビリと並んで進む「連続したもの」と見るべきだとしました。判断は医療者・選手・コーチが一緒に行うのが理想だとしています。
日本では、日本スポーツ協会(JSPO)公認のアスレティックトレーナーが、スポーツドクターやコーチと協力して、けがのあとのリコンディショニングやパフォーマンスの回復を支える役割を担っています。チームにトレーナーがいれば、練習の段階を上げるときに相談してください。
休んでいる間に落ちやすい体力、落ちにくい体力
怪我明けに「息がすぐ上がる」と感じるのは自然なことです。スペインの当時アスレティック・ビルバオの医療部門にいたMujikaらの総説によると、鍛えている選手が4週間未満練習を止めただけでも、最大酸素摂取量や血液量はすぐに下がりはじめます。一方で筋力の低下は限られ、4週間を超える長い休みでもゆっくり落ちるとしています。
同じ総説は、練習の強度を保てば、回数をやや減らし、量を大きく減らしても、落ち方を抑えられると述べています。別の種目で代わりに鍛えるクロストレーニングも、有効な場合があるとしています。足をけがしていても、医療者が許可した運動で心肺を動かせる場合があるということです。
また、けがのあとに「とにかく安静」がよいとも限りません。JFAは、応急処置の考え方が「RICE」から「POLICE」などへ変わってきたと紹介しています。POLICEは安静(Rest)の代わりに「保護」と「最適な負荷」を入れた考え方です。JFAの説明では、安静は筋力だけでなく組織の強さや質も落とすため、POLICEでは早めの負荷を勧めています。どの負荷が「最適」かは、けがの状態を見て医療者が決めます。
医師・理学療法士の許可が出たら「やってよいこと」と「まだ待つこと」
やってよいことの中心は、医療者に指示されたリハビリです。JFAは使いすぎによるけが(スポーツ障害)について、軽い痛みであっても、痛みを強くする動作は控えて慢性化させないことが大切だとしています。痛みが増えない範囲で体を動かし、増えるようなら無理をせず相談しましょう。
体調の記録もおすすめです。JFAは、使いすぎを防ぐための簡単な体調の見方として、体重・心拍数・自分でつける体調の点数を挙げています。記録しておくと、医療者やトレーナーに状態を伝えやすくなります。
まだ待つことの1つ目は、練習量を一気に増やすことです。最初に紹介したプレミアリーグの現場の論文も、走る量は大きく急に増やさず、少しずつ上げるよう書いています。対人や接触プレーは、5段階の最後で強さを段階的に上げながら入れるものです。
試合に出るかどうかを、自分だけで決めるのもやめましょう。けがの種類によっては、同じけがを繰り返しやすいことが研究でわかっています(最後の章で紹介します)。けがを予防する準備運動「11+」は、下の記事で紹介しています。
頭を打った(脳しんとう)あとは、6つの段階で戻す
JFATV「FIFA脳振盪予防キャンペーン(グラスルーツ向け)_日本語字幕」(2025年12月公開)。FIFAが作った、脳しんとうを疑ってプレーを止めるよう呼びかける72秒の動画です
頭を打ったあとの復帰は、ほかのけがとは別に考えます。JFAはグラスルーツ向けの指針として、FIFAの「グラスルーツ向け FIFA脳振盪プロトコル」(2024年8月)の日本語版を公開しています。脳しんとうが疑われたら直ちにプレーを中止し、医師の許可が出てから復帰するのが前提です。
| 段階 | 内容 | 例(資料の記載どおり) |
|---|---|---|
| フェーズ1 | 相対的安静期 | 最初の24〜48時間は無理をしない。日常的な活動は可、ただしスマートフォンやPCの画面を見る時間は最小限に |
| フェーズ2 | 軽い運動 | 軽いジョギング、エアロバイク |
| フェーズ3 | サッカーに特化した運動 | ドリブル |
| フェーズ4 | 接触プレーのない練習 | 接触やヘディングなしの試合 |
| フェーズ5 | 接触プレーのある練習 | 接触や軽いヘディングありのゲーム |
| フェーズ6 | プレーへの復帰 | 完全復帰 |
※JFA掲載「グラスルーツ向け FIFA脳振盪プロトコル」(2024年8月)の「段階的なサッカー競技への復帰プログラム」より
次のフェーズへ進めるのは、症状が軽く、悪化も短い時間で収まる場合だけです。資料では、活動前と比べて1時間未満で、10点満点中2点以内の増加と書かれています。症状がそれ以上に悪化したら、少なくとも24時間休み、必ず前のフェーズに戻ってやり直します。フェーズ5の前には、医師の評価を受けることが勧められています。
日数の目安も資料にあります。約3分の2の人が28日以内に完全復帰できますが、子どもやユースはさらに時間がかかることがあります。症状が28日以上続くときは、あらためて医師の診察を受けます。学校や仕事への復帰が、サッカーより先です。
トップ選手向けのJFAの指針では、各フェーズに少なくとも1回の練習を含め、最低24時間をかけるとしています。また、JFAは「大丈夫です」「やれます」という本人の返事だけでプレーを続けるのは危険だと注意しています。
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上はFIFA公式のInstagramで、2025年6月26日(日本時間)に、FIFAと世界保健機関(WHO)の脳しんとう啓発キャンペーン「Suspect and Protect(疑って、守る)」がクラブワールドカップの会場でも始まったことを伝えた投稿です。キャンペーンは2024年9月に始まり、選手・指導者・医療スタッフ・観客に向けたものだと説明しています。
怪我明けの食事は「量を減らしすぎない」が基本
怪我明けの食事で一番気をつけたいのは、食べる量を減らしすぎないことです。JFAの栄養ガイドラインは、練習のある日・ない日・けがの時などで、必要なエネルギー量は変わるので調整が必要だとしています。足りているかどうかは、体重の変化で確かめます。
毎食そろえたいのは、主食・主菜・副菜・牛乳や乳製品・果物の5つです。JFAのQ&Aでは、糖質(炭水化物)が足りないと体のたんぱく質が分解されて筋肉量が落ちるおそれがあるため、むやみに炭水化物を抜かないよう注意しています。
英国の研究者Tiptonの総説(2015年)も、けがをした選手はエネルギーやたんぱく質の不足を避けるべきだとしています。けがで手足を固定すると、筋肉量や筋力が落ちます。食べる量を減らすときも、たんぱく質の量そのものは減らさないよう気をつけるべきだと書いています。
一方で、特定の栄養素を多くとると早く治るという話には、根拠がはっきりしないものが多いとも述べています。オメガ3脂肪酸も、筋肉量の低下を抑える目的では「有望だが、まだ初期段階の証拠」という評価です。まずは、加工の少ない食品を中心にした、バランスのよい食事が基本です。
復帰したのに調子が悪い・怖いと感じたら
復帰したのに調子が戻らない、と悩む人は少なくありません。フットボール戦士の記事がGoogleの検索結果に表示された回数を集計すると、「サッカー 怪我明け 調子 悪い」でも16か月で181回表示されていました。この記事の見出しの中では、「メンタル面のケア」を指すリンクも1,633回表示されています。体力の戻し方と同じくらい、気持ちの面を気にしている人が多いと言えます。
気持ちの面は、復帰のしやすさと関係があります。膝の前十字靭帯(ACL)の再建手術を受けた7,556人分をまとめた2014年の研究では、何らかのスポーツに戻った人は平均81%、けがの前と同じレベルに戻った人は65%、競技レベルに戻った人は55%でした。心理面で前向きな反応があることは、けがの前のレベルへの復帰を後押しする要因の1つでした。
「またけがをするのでは」という不安にも理由があります。スウェーデンのトップリーグ12チームを2シーズン追った研究では、1シーズン目にけがをした選手は、翌シーズンに何らかのけがをする危険が約2.7倍でした。太もも裏・鼠径部のけがや膝のけがでは、翌シーズンに同じけがをする危険が2〜3倍でした。足首のねんざには、この関係は見られませんでした。
だからこそ、焦って段階を飛ばさないことが大切です。トップ選手向けのJFAの脳しんとうの指針でも、最後のフェーズで「精神的な準備態勢」を評価・確認するとしています。不安が強いときは、医療者やトレーナーに正直に伝えましょう。試合でどれくらい走るのかを知っておくと、戻すべき体力の目安もつかみやすくなります。
よくある質問
A. まず担当の医師・理学療法士に、今やってよい運動の範囲を確かめてください。そのうえで、ゆっくりまっすぐ走るような管理された運動から始め、方向転換、予測できない動き、試合と同じ強さへと順に上げていきます。
A. けがの種類や重さによって違い、決まった日数はありません。プレミアリーグの現場から生まれた5段階の考え方も、進むかどうかは日数ではなく体の状態で決めるとしています。脳しんとうの場合は、約3分の2の人が28日以内に完全復帰するとFIFAの資料にあります。
A. 自分では判断せず、医療者に相談してください。JFAは使いすぎによるけがについて、軽い痛みでも、痛みを強くする動作は控えて慢性化させないことが大切だとしています。練習中に痛みや腫れが増えたら、その日はやめて相談しましょう。
A. 続けさせないでください。JFAは、本人の「大丈夫です」「やれます」という返事だけでプレーを続けるのは危険だとしています。脳しんとうが疑われたら直ちにプレーを中止し、医師の診断を受けます。症状は遅れて出ることもあります。
A. まずは毎日の食事が基本です。けがと栄養の総説では、多くの栄養素について「効く」という主張の根拠ははっきりしないとされています。エネルギーやたんぱく質が足りなくならないよう、主食・主菜・副菜・乳製品・果物をそろえましょう。
まとめ:怪我明けの体力は、段階を踏んで「体の状態」で進める
- 復帰の時期と内容は、医師・理学療法士の指示に従うのが大前提
- 練習は「管理された動き」から「予測できない動き」へ5段階で上げる
- 次へ進むのは日数ではなく体の状態で決める。痛みが増える動きは控える
- 休むと持久力は早く落ち、筋力はゆっくり落ちる。許可の範囲で心肺を動かす
- 脳しんとうは6つのフェーズで戻り、症状が悪化したら24時間休んで前のフェーズへ
怪我明けは、早く元に戻りたい気持ちと、またけがをしたくない気持ちがぶつかる時期です。今どの段階にいるのかを医療者と一緒に確かめながら、焦らず1段ずつ上げていけば、体力も自信も少しずつ戻ってきます。
※この記事の情報は2026年9月27日時点のものです。記事は公開資料と研究の紹介で、診断や治療の代わりにはなりません。出典:Taberner M, et al. Br J Sports Med 2019;53:1132-6、Ardern CL, et al. Br J Sports Med 2016;50:853-64、Mujika I, Padilla S. Sports Med 2000;30:79-87 および 30:145-54、Tipton KD. Sports Med 2015;45 Suppl 1:S93-104、Ardern CL, et al. Br J Sports Med 2014;48:1543-52、Hägglund M, et al. Br J Sports Med 2006;40:767-72、JFA「ケガへの対応と予防」「JFA栄養ガイドライン」「JFA栄養ガイドラインQ&A」「脳振盪(グラスルーツ向け)」「グラスルーツ向け FIFA脳振盪プロトコル」(2024年8月)「脳振盪(トップアスリート/メディカル関係者向け)」、日本スポーツ協会「アスレティックトレーナー」、JFATV(YouTube)、Google Search Console(フットボール戦士)。
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