- ヤマル選手はラマダン中、本当に断食しながら試合に出ているの?
- 飲まず食わずでトップレベルのプレーができるのか心配
- そもそもラマダンや断食のルールがよくわからない
- バルセロナはどんなサポートをしているのか知りたい
バルセロナのラミン・ヤマル選手は、ラマダンの断食を実践しながらトップレベルの試合に出場し続けていることで、世界中のサッカーファンから注目を集めています。10代にしてクラブの中心となった選手が、なぜ、どのように断食とプロ生活を両立させているのか。この記事では、本人の言葉やクラブの対応をもとに、その全体像をわかりやすく整理します。
ヤマルとラマダンの基礎知識|なぜ世界的な話題になるのか
まずは前提となる2つのこと、つまり「ヤマル選手がラマダンを実践する背景」と「ラマダンとは何か」を押さえておきましょう。ここが分かると、この話題がなぜ毎年大きく報じられるのかが見えてきます。
ヤマルがラマダンを実践する背景にある家族のルーツ
ラミン・ヤマル選手は2007年7月13日、スペイン・カタルーニャ州で生まれました。父親はモロッコ出身、母親は赤道ギニア出身で、育ったのはバルセロナ近郊マタロー市のロカフォンダ地区です。ゴールを決めた際に指で示す「304」のポーズは、この地区の郵便番号の下3桁にちなんだもので、自分のルーツへの誇りを表すものとして知られています。
ヤマル選手はイスラム教の信仰を持ち、モロッコにルーツを持つ父方の家族の伝統を大切にしていることを公言しています。ラマダンの断食も、その信仰実践の一つです。試合前にピッチで祈りを捧げる姿もたびたび見られ、信仰が彼のアイデンティティの重要な部分であることがうかがえます。
ラマダンとは?断食の基本ルール
ラマダンは、イスラム教の暦(ヒジュラ暦)における第9月の名前です。この1か月間、イスラム教徒は日の出から日没まで、食べ物だけでなく水も一切口にしない断食(サウム)を行います。断食と聞くと「1か月間何も食べない」と誤解されがちですが、実際には日没後から夜明け前までは飲食が認められています。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| サウム | 日の出から日没までの断食。飲食のほか、日中は水分補給もしない |
| スフール | 夜明け前にとる食事。断食に備えて栄養と水分をしっかり補給する |
| イフタール | 日没後に断食を解く食事。家族や仲間と集まって食べることが多い |
| イード・アル=フィトル | ラマダン明けを祝う祭り。断食月の終了を意味する |
重要なのは、イスラム法には柔軟な運用の考え方があることです。病人や旅行者、激しい肉体労働に従事する人などは断食を免除・延期でき、後日別の日に断食して埋め合わせることが認められています。プロサッカー選手の試合日への対応も、この考え方と関わってきます。
ラマダンの時期は毎年ずれる|2026年は2月中旬から3月中旬
ヒジュラ暦は月の満ち欠けに基づく暦のため、ラマダンの時期は毎年およそ10〜11日ずつ早まっていきます。2025年のラマダンは3月上旬から下旬、2026年は2月17日ごろから3月19日ごろまで(開始・終了は月の観測により前後します)でした。
ここにサッカー選手ならではの難しさがあります。ヨーロッパのサッカーシーズンは8月から翌年5月ごろまで続くため、2月〜3月のラマダンはリーグ戦もカップ戦も佳境を迎える真っただ中に重なるのです。数年前まではシーズン終盤の4月ごろだったラマダンが、年々シーズンの中心部へと移動してきており、選手やクラブの対応がより一層注目されるようになっています。
ヤマルはラマダン中も断食して試合に出ているのか
結論から言うと、ヤマル選手はラマダン期間中も断食を実践しながらトレーニングや試合をこなしています。ただし「すべての日に完全断食」というわけではなく、試合日には柔軟な対応も報じられています。年ごとの経緯を見ていきましょう。
2025年:スペイン代表活動中に断食した初めての選手に
2025年3月のラマダンで、ヤマル選手は大きな話題を呼びました。UEFAネーションズリーグのオランダ戦に向けたスペイン代表の合宿中に断食を実践し、「ラマダン中に代表チームで断食を行った初のイスラム教徒選手」として海外メディアに報じられたのです。
スペイン代表にはそれまでもイスラム教徒の選手が招集されたことはありましたが、招集期間とラマダンが重なる中で断食を貫いたのはヤマル選手が初めてとされています。代表のメディカルスタッフが体調を管理し、水分補給の計画を立てたうえでの実践でした。当時17歳の選手がこの選択をしたことは、スペイン国内外で驚きとともに受け止められました。
試合当日は「免除」という選択肢も
一方で、2025年のラマダンでは、ヤマル選手が試合当日については断食を免除される対応をとったことも報じられています。前述のとおり、イスラム法には激しい肉体活動に従事する人への免除規定があり、断食できなかった日は後日埋め合わせることができます。これはヤマル選手だけの特別扱いではなく、世界中のイスラム教徒アスリートが用いている一般的な運用です。
また、非試合日の日没後には、育ったロカフォンダ地区にある親族の家でイフタール(断食明けの食事)をとっていたと伝えられており、家族とのつながりを保ちながらラマダンを過ごしている様子がうかがえます。
2026年:過密日程の中でも断食を継続
2026年のラマダン(2月中旬〜3月中旬)は、ラ・リーガ2025-26シーズンの優勝争いと完全に重なりました。当時のバルセロナを率いていたフリック監督は、ラマダン開始直後の記者会見で、チーム内で断食を実践しているのはヤマル選手のみであることを明かし、クラブとして休養・栄養・体のバランスに焦点を当てた明確なプランで支えていると説明しました。
断食期間中の初戦となった2026年2月22日のレバンテ戦で、バルセロナは3-0で勝利。ヤマル選手が断食を続けながらこの試合に臨んだことは、海外メディアでも大きく報じられました。この期間のリーグ戦には16時15分キックオフの試合が続き、スペインの日没時刻(18時30分〜19時ごろ)より前に試合が終わる、つまり水分補給ができないまま90分を戦う日程だったことも、注目度を高めた要因です。
ヤマル本人が明かした断食中の1日ルーティン
ヤマル選手は、断食中の過ごし方について自ら語っています。その内容から浮かび上がるのは、「気合で耐える」のではなく、計画的に体を管理する姿です。
午前4時に起きて、しっかり食べる
ヤマル選手が明かしたルーティンの柱は、夜明け前の食事です。午前4時ごろに起きてしっかりと食事をとり、日の出後はチームの朝食には参加せず、通常どおりトレーニングに合流。日中は祈りを続けながら過ごし、日没後に断食を解くという流れです。本人は「空腹にはならない。大切なのは水分補給だ」と語り、断食が自分のプレーに影響しないことを強調しています。
| 時間帯 | ヤマル選手の過ごし方 |
|---|---|
| 午前4時ごろ | 起床し、夜明け前の食事(スフール)。栄養と水分をまとめて補給 |
| 午前中 | チームの朝食はスキップし、通常どおりトレーニングに参加 |
| 日中 | 飲食をせず、祈りを続けながら過ごす |
| 日没後 | 断食を解く食事(イフタール)。消化に負担の少ない栄養補給と水分・電解質の摂取 |
最大の課題は空腹ではなく「水分」
ラマダンの断食では日中の水分補給もできないため、アスリートにとって最大の課題は脱水です。ヤマル選手のプランでも、飲食が許される夜間から夜明け前にかけて、電解質を含む飲料で集中的に水分を蓄えることが重視されていると報じられています。糖分の多い飲食を避け、睡眠や回復を妨げない食事内容にすることもポイントとされています。
バルセロナのサポート体制|クラブに蓄積されたノウハウ
ヤマル選手の断食は、本人の自己管理だけで成り立っているわけではありません。バルセロナというクラブの組織的なサポートが背後にあります。
フリック監督「休養・栄養・バランスに焦点を当てた明確なプラン」
2026年のラマダン開始時、フリック監督は記者会見で、クラブとして休養・栄養・身体的バランスに焦点を当てた一つの明確なプランを持っていると説明しました。メディカルスタッフとコーチングスタッフが連携し、トレーニング時間や食事のタイミングを細かく調整しながら選手を見守る体制です。監督は、クラブは選手の選択を尊重し、チームに問題を生じさせない形でそれに合わせて対応するという趣旨の姿勢を示しており、断食を「問題」ではなく「対応すべき前提条件」として扱っていることがわかります。
デンベレ、ケシエ、アンス・ファティ…積み重ねられた経験
バルセロナがイスラム教徒の選手のラマダンに対応するのは、ヤマル選手が初めてではありません。ウスマン・デンベレ選手、フランク・ケシエ選手、アンス・ファティ選手など、過去に在籍したイスラム教徒の選手たちへの対応を通じて、栄養・回復・水分補給のプロトコルがクラブ内に蓄積されてきました。ヤマル選手への個別プランも、この経験の延長線上にあります。
これはバルセロナに限った話ではなく、ラ・リーガには多数のイスラム教徒選手が在籍しており、各クラブが同様の対応を行っています。さらにイングランドのプレミアリーグでは、日没時刻と試合時間が重なった際に、断食中の選手が水分補給できるよう試合を一時的に中断する運用が行われた事例もあり、サッカー界全体として宗教的実践への配慮が広がっています。
断食はパフォーマンスに影響するのか
「飲まず食わずで試合に出て、本当に大丈夫なのか」。これは多くのファンが抱く率直な疑問です。リスクと実際の結果の両面から見てみましょう。
専門的に指摘されるリスク
スポーツ科学の観点からは、日中の水分・栄養補給ができない状態での高強度運動には、次のようなリスクが指摘されています。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 脱水 | 発汗で失った水分を試合中に補給できず、パフォーマンス低下につながりうる |
| 筋肉系のトラブル | 水分・電解質不足はけいれんや筋肉のけがのリスク要因になるとされる |
| 疲労・集中力 | エネルギー切れや睡眠リズムの変化により、終盤の集中力に影響する可能性 |
特にヤマル選手のように、爆発的なスピードとドリブルを武器とするタイプの選手にとって、コンディション管理はプレーの生命線です。だからこそ、前述の夜間の栄養戦略や試合日の柔軟な対応が組み合わされているのです。
実際の成績はどうか
結果を見る限り、ヤマル選手はラマダンと重なった時期も高いレベルのプレーを維持してきました。2025年のラマダンを含む2024-25シーズンには公式戦で18ゴール21アシストを記録し、バルセロナはラ・リーガとコパ・デル・レイの2冠を達成。2026年のラマダン期間中も、初戦のレバンテ戦勝利(3-0)を含め、バルセロナはリーグ優勝争いを走り切り、2025-26シーズンのラ・リーガ制覇にたどり着いています。
もちろん「断食したから活躍できた」と言えるわけではありませんし、影響がゼロだと断定することもできません。ただ、少なくとも「断食イコール成績低下」という単純な図式が当てはまっていないことは、結果が示していると言えるでしょう。本人が「断食は自分のプレーに影響しない」と語っている背景には、こうした実績と、それを支える緻密な準備があります。
ファンや世間の反応
ヤマル選手のラマダン実践に対する反応は、大きく3つの傾向に分かれます。
1つ目は、信仰への敬意と称賛です。若くして世界的なプレッシャーにさらされながら、自らのルーツと信仰を貫く姿勢に対し、宗教の枠を超えて「立派だ」「尊敬する」という声が多く見られます。特にイスラム圏のファンからは、同じ信仰を持つ若者のロールモデルとして支持する反応が目立ちます。
2つ目は、健康面を心配する声です。「脱水が心配」「成長期の体に筋肉系のけがのリスクはないのか」といった懸念や、監督にローテーションや出場時間の管理を求める意見も少なくありません。過去に他の選手がラマダン期間中にけがをした事例を引き合いに出す声もあります。
3つ目は、驚きです。「水も飲まずにあのプレーができるのか」という純粋な驚嘆は、ラマダンの仕組みを知らなかった層がこの話題を通じて異文化を知るきっかけにもなっています。信仰は尊重されるべきだという意見と健康への懸念が同居しているのが、SNS上の反応の実像と言えます。
ラミン・ヤマルのプロフィール早見表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 生年月日 | 2007年7月13日 |
| 出身 | スペイン・カタルーニャ州(マタロー市ロカフォンダ地区育ち) |
| ルーツ | 父はモロッコ出身、母は赤道ギニア出身 |
| 所属・背番号 | FCバルセロナ・背番号10(ポジションは右ウイング) |
| トップチームデビュー | 2023年4月(15歳9か月・クラブ史上最年少級の記録) |
| 主なタイトル | ラ・リーガ優勝(2024-25、2025-26ほか)、コパ・デル・レイ(2024-25)、EURO2024優勝 |
| 主な個人賞 | EURO2024最優秀若手選手、コパ・トロフィー2年連続受賞(2024・2025)、2025年バロンドール2位 |
EURO2024では大会最年少出場・最年少得点を記録しながらスペインの優勝に貢献し、2024-25シーズンは公式戦18ゴール21アシスト。10代のうちから世界最高峰の評価を受けている選手です。こうした「サッカー選手としての重圧」と「信仰の実践」を同時に背負っている点こそが、ヤマル選手のラマダンが単なるゴシップではなく、スポーツと文化の交差点として語られる理由です。
よくある質問
A. はい。ヤマル選手はイスラム教の信仰を持ち、モロッコにルーツを持つ父方の家族の伝統を大切にしていることを公言しています。ラマダンの断食のほか、試合前後に祈りを捧げる姿も知られています。
A. 日の出から日没までは、食べ物だけでなく水を含む一切の飲み物を口にしません。そのためアスリートにとっては空腹以上に脱水が課題となり、ヤマル選手も夜間から夜明け前に電解質を含む水分を集中的に補給する対策をとっています。
A. イスラム法には激しい肉体活動などに従事する人への免除規定があり、断食できなかった日は後日埋め合わせることが認められています。ヤマル選手も試合当日はこの運用を用いたと報じられた一方、断食を続けたまま試合に出場したケースも伝えられており、状況に応じて対応しているとみられます。
A. ラマダンと重なった2024-25シーズンに公式戦18ゴール21アシストを記録するなど、高い水準の成績を残しています。本人も「断食はプレーに影響しない」と語っていますが、その背景には夜明け前の食事や水分・電解質の戦略、クラブの医療サポートといった緻密な準備があります。
A. いいえ。ラマダンは月の満ち欠けに基づく暦で決まるため、毎年およそ10〜11日ずつ早まります。2025年は3月、2026年は2月中旬〜3月中旬でした。今後もしばらくは欧州サッカーのシーズン中盤と重なる時期が続きます。
まとめ
- ヤマル選手はイスラム教徒で、ラマダンの断食をトレーニングや試合と両立させながら実践している
- 2025年にはスペイン代表の活動中に断食した初の選手として話題になった
- 試合当日は「免除して後日補う」という宗教的に認められた柔軟な運用も報じられている
- 本人のルーティンは「午前4時起床でしっかり食事、日中は水分なしで通常トレーニング」。鍵は空腹対策よりも水分・電解質の管理
- バルセロナは過去のイスラム教徒選手への対応で培ったノウハウをもとに、栄養・休養・医療の面から組織的に支えている
- ラマダンと重なった時期も高い成績を維持しており、「断食=パフォーマンス低下」という単純な図式は当てはまっていない
ヤマル選手のラマダンは、信仰と世界最高峰のプロフェッショナリズムがどう共存できるかを示す、現代サッカーの象徴的なテーマです。ラマダンの時期は毎年少しずつ移動していくため、シーズンとの重なり方も年ごとに変わっていきます。今後もヤマル選手がどのように信仰とキャリアを両立させていくのか、一つの文化的な視点としてサッカー観戦に加えてみてはいかがでしょうか。
フットボール戦士 
