- PK戦は先に蹴るほうが有利って本当?W杯ではどうだった?
- 後攻はプレッシャーで外しやすい、という話は数字で見ても正しい?
- 日本代表のPK戦は先攻と後攻でどんな結果だった?
W杯のPK戦では、先攻が有利とは言えません。フットボール戦士が1982年から2026年までのW杯のPK戦39回を調べると、先に蹴ったチームが勝ったのは17回(43.6%)で、後攻の22回より少なくなりました。国際Aマッチ全体でも、先攻の勝ちは260回中136回(52.3%)と、ほぼ半々です。
この記事では、W杯と主な大陸大会のPK戦を先攻・後攻に分けて集計し、1本ずつのキックの成功率、日本代表の12回のPK戦も見ていきます。「先攻が6割勝つ」という有名な研究や、蹴る順番を変えようとしたルールの試みも紹介します。
W杯のPK戦は先攻が有利?39回で先攻の勝ちは17回
W杯でPK戦が行われたのは、1982年スペイン大会の準決勝(西ドイツ対フランス)が最初です。2026年北中米大会までの39回で、先に蹴ったチームが勝ったのは17回、後に蹴ったチームが勝ったのは22回でした。先攻の勝率は43.6%で、W杯に限ればむしろ後攻のほうが多く勝っています。
ただし、39回は多い数ではありません。コインを39回投げても、表が17回以下になることはよくあります。計算すると、本当は五分五分でもこのくらいの差は半分ほどの確率で起こるので、「W杯では後攻が有利」とまでは言えません。
W杯以外も含めた国際Aマッチでは、記録に残るPK戦が683回あり、そのうち先攻が分かる260回で先攻の勝ちは136回(52.3%)でした。こちらも50%との差はわずかです。
大会ごとに比べると?W杯だけ先攻の勝率が5割を切る
大陸ごとの大会でも分けてみました。先攻の勝率が一番高いのはアジアカップの55.0%(20回中11回)で、アフリカ・ネーションズカップ、ユーロ、コパ・アメリカも51〜53%に並びます。北中米のゴールドカップはちょうど50%でした。
5割を切ったのはW杯だけです。どの大会も先攻が勝つのは5割前後で、6割に届く大会はありませんでした。W杯予選は12回中8回が先攻の勝ちですが、回数が少ないので図には入れていません。
2018年以降のW杯は後攻が13回中11回勝っている
W杯のPK戦を大会ごとに並べると、時期によって傾向が大きく違います。2014年ブラジル大会までの26回では、先攻が15回勝っていました(57.7%)。2006年ドイツ大会は4回すべて、2010年南アフリカ大会も2回とも先攻の勝ちです。
ところが2018年ロシア大会からは、13回のうち先攻が勝ったのは2回だけです。2018年は4回とも後攻の勝ちで、2026年大会も4回すべて後攻が勝ちました。2026年はドイツ対パラグアイ(パラグアイの勝ち)、オランダ対モロッコ(モロッコの勝ち)、オーストラリア対エジプト(エジプトの勝ち)、スイス対コロンビア(スイスの勝ち)の4回です。
13回中2回はかなり偏った数字ですが、「2018年以降」という区切りは結果を見てから選んだものです。この時期に何が変わったのかは、このデータからは分かりません。今のところは「最近のW杯は後攻の勝ちが続いている」という事実にとどめておくのが正確です。
後攻は重圧で外しやすい?1本ずつ見ると成功率は後攻のほうが上
「先攻が有利」と言われる一番の理由は、後攻は相手が先に決めた状態で蹴るので、重圧が大きくなるという考え方です。そこで、W杯の39回のPK戦で蹴られた360本を、1本ずつ数えてみました。
結果は、先攻チームが187本中126本成功(67.4%)、後攻チームが173本中121本成功(69.9%)です。後攻のほうがわずかに高く、少なくともW杯では「後攻が重圧で外しやすい」という傾向は見えませんでした。何本目ごとに見ても、後攻が大きく崩れる番はありません。4本目は先攻62%・後攻58%と両方とも下がっていて、勝負が決まりかける場面の難しさは、先攻と後攻で同じように出ています。
先攻・後攻よりはっきり差が出たのは、「どちらが先に外したか」です。39回のうち、先に外したチームが負けたのは32回(82.1%)でした。先攻チームの1本目が外れた12回では、先攻が勝てたのは2回だけです。
日本代表のPK戦は?12回で5勝7敗、先攻では2勝2敗
フットボール戦士の集計では、日本代表のPK戦は12回で5勝7敗です。順番が分かる8回に限ると、日本が先に蹴ったときは2勝2敗、後に蹴ったときは1勝3敗でした。
この12回は、元のデータに入っている2026年7月までの記録です。2026年10月1日のキリンカップのエクアドル戦(0-0)も、試合後のPK戦で日本が勝ちました。この試合を加えると13回で6勝7敗になります。
W杯では2回ともベスト16で敗れています。2010年南アフリカ大会のパラグアイ戦は後攻で、3人目の駒野友一選手が外して3-5で負けました。2022年カタール大会のクロアチア戦は日本が先攻で、南野拓実選手、三笘薫選手、吉田麻也選手が止められ、決めたのは浅野拓磨選手だけの1-3でした。
先攻で勝った試合には、2004年アジアカップ準々決勝のヨルダン戦があります。1人目の中村俊輔選手、2人目の三都主アレサンドロ選手が足を滑らせて続けて外しましたが、キャプテンの宮本恒靖選手が主審にピッチの状態を訴えて、蹴るゴールが変わりました。日本はそこから逆転して勝っています。
日本の戦績を試合全体で見たい方は、日本代表の成績はホームとアウェーでどれだけ違う?もあわせてどうぞ。なお、データベースではPK戦で決まった試合は引き分けとして数えています。
なぜ先攻が有利と言われる?「6割」の研究とABBA方式
「先攻が有利」が広まったのは、スペインの経済学者イグナシオ・パラシオス=ウエルタ氏の研究がきっかけです。PK戦の記録を調べて、先攻のチームが約60%勝っていると発表しました。理由は、後攻は相手にリードされた状態で蹴ることが多く、重圧が大きいからだと考えられています。
| 調べたもの | 先攻の勝率 |
|---|---|
| パラシオス=ウエルタ氏の研究 | 約60% |
| データ会社InStatの分析(2,000回以上) | 51.48% |
| 国際Aマッチ全体(フットボール戦士) | 52.3%(260回) |
| W杯本大会(フットボール戦士) | 43.6%(39回) |
※研究の数字は英語版Wikipedia「Penalty shoot-out (association football)」の記載による。2024年の大規模な研究では、近年のヨーロッパのサッカーで先攻の有利は見られなかったとされています。
サッカーのルールを決める国際サッカー評議会(IFAB)は、この「先攻有利」を減らすために、2017年3月に新しい順番を試すことを認めました。テニスのタイブレークのように「A・B・B・A」と蹴る方式で、2017年のU-17欧州選手権などで使われました。しかし2018年11月22日の会議で、仕組みが複雑で支持が広がらなかったため、今後は使わないことが決まっています。
今のルールでは、PK戦の前に主審がコインを2回投げます。1回目は蹴るゴールを決めるため、2回目は先に蹴るか後に蹴るかを決めるためで、2回目のトスに勝ったチームが先攻か後攻かを選べます。W杯のデータを見る限り、トスに勝って後攻を選んでも不利とは言えません。
データについて
集計に使ったのは、各国代表の国際試合の結果とPK戦の記録をまとめた公開データ(martj42/international_results・CC0)です。フットボール戦士の数字で見るサッカーのルールと同じデータで、1967年8月から2026年7月7日までのPK戦683回が入っています。
どちらが先に蹴ったかの記録は、683回のうち260回にしかありません。1980年代までのPK戦はほとんど記録がなく、2020年代は8割以上に記録があります。そのため国際Aマッチ全体の数字は、最近の試合の比重が大きくなっています。W杯の39回は全部に記録があり、英語版Wikipediaの「List of FIFA World Cup penalty shoot-outs」で1回ずつ突き合わせて、先攻・勝ったチーム・スコアがすべて一致することを確かめました。1本ずつの成功率は、同じページの蹴り手の記録から数えています。
日本代表のPK戦12回は、元のデータに入っている試合です。JFAの公式記録とは数え方が違う場合があります。この記事の比較は、先攻と後攻で勝った回数に差があるかを見たもので、差が生まれた原因を調べたものではありません。
よくある質問
A. はっきりした差はありません。フットボール戦士の集計では、W杯のPK戦39回で先攻の勝ちは17回(43.6%)、国際Aマッチ全体では260回中136回(52.3%)でした。
A. 主審がコインを投げて、トスに勝ったチームが先に蹴るか後に蹴るかを選びます。その前にもう1回コインを投げて、蹴るゴールを決めます。
A. 2022年カタール大会の5回です。2026年大会は4回で、4回とも後に蹴ったチームが勝ちました。
A. まだありません。2010年のパラグアイ戦(後攻)と2022年のクロアチア戦(先攻)の2回とも、ベスト16で敗れています。
A. 2017年に「A・B・B・A」の順で蹴る方式が試されましたが、2018年11月に今後は使わないことが決まりました。今は交互に蹴る方式だけです。
まとめ:W杯のPK戦は先攻より「先に外さないこと」
- W杯のPK戦39回で、先攻の勝ちは17回(43.6%)。国際Aマッチ全体でも52.3%で、先攻が大きく有利とは言えない
- 大陸大会でも先攻の勝率は50〜55%。5割を切ったのはW杯だけ
- W杯は2014年までは先攻26回中15回勝ち、2018年以降は13回中2回だけ。区切りは結果を見て選んだもので、原因は分からない
- 1本ずつの成功率は先攻67.4%、後攻69.9%。先に外したチームが39回中32回負けている
- 日本代表のPK戦は2026年7月までで12回5勝7敗(10月1日のエクアドル戦の勝利を加えると6勝7敗)。W杯は2010年・2022年ともベスト16で敗れた
「先攻が有利」はよく聞く話ですが、W杯の記録を数えると、順番よりも先に外さないことのほうが勝敗に強く結びついていました。次に日本代表がPK戦を迎えたときは、コイントスの結果よりも、1人目・2人目のキッカーに注目して見てみてください。
※この記事の情報は2026年10月2日時点のものです。PK戦のデータは公開データ(martj42/international_results)の2026年7月7日までの記録と、英語版Wikipedia「List of FIFA World Cup penalty shoot-outs」をもとにフットボール戦士が集計しました。
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